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□雨の日
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最悪だ。

「ぶっ」
「……」
「あはははははっ!!総ちゃん何それ!」

この大笑いした女の頭を鷲掴みにする。
うるせぇ今俺は機嫌が猛烈に悪いんだ。

気付かぬ内に力を込めていたらし名無しから「あいたたたっ総ちゃんぎぶっギブっ」と悲鳴が聞こえる。

だからうるせぇって。

「わっ総介どうしたのその髪」
「おぉ貴志部」
「聞いてよ大河君総ちゃんが酷いんだよ!」
「酷いのはお前の頭だ」
「うわぁい!!!」

後ろから背中を蹴ると名無しは蛙が潰されたような声を上げる。
やべぇこいつおもしれぇ。
むしゃくしゃしたのでとりあえず名無しのセットした髪をぐちゃぐちゃに掻きまわす。

「総介それはちょっと」
「ほれ見ろよ貴志部ぶっさいく」
「総ちゃん嫌い」
「俺も嫌い」
「くっ」

俺が鼻で笑うとこいつはさもやられたとでも言いたいように顔を顰める。
本当におもしろいやつだ。

外からざあざあと不快な音が聞こえる。
これだから梅雨は嫌いなんだ。
こいつも俺も貴志部もみんな天パだ。
貴志部はまだゆるい感じの天パなので見栄えもいいだろう。
だがこいつと俺は、

「せっかくセットしてきたのに」
「俺は1時間かかった」
「同じく」
「お互い天パって大変だよな」
「大河君はいいよねゆるふわで」
「俺も毎朝鏡の前で格闘だよ」

かなり広がる、し余計なとこまで巻かれる。

俺、貴志部、名無しは天パ同盟を組んでいる。
天パにとっては梅雨は、敵でしかない。

朝起きるとまず髪が広がっている。
次に鏡の前でワックスと一緒に格闘。
学校に来るまで汗やら雨やらで更に酷いものになる。
教室に入って持ってきたワックスを使い再び手鏡を睨む。
もうお決まりのパターンになってきている。

クラスの女子が「梅雨って髪の毛広がるからやだよねー」と真っ直ぐな髪を触りながら言うもんだから殴り飛ばしたい。
それを貴志部に言うと「殴り飛ばしちゃだめだよ」と気まずそうに言ったもの否定はしないらしい。

「総ちゃん?」
「あ?」
「ぐちゃぐちゃにして楽しい?」
「物凄く」
「あっそ」

名無しは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
これだからやめられない。止まらない。
何だか余計に面白くなって名無しの前髪を片手で掻き上げる。
名無しは一瞬驚いたように動きが止まったがどうやらでこ出しは好きじゃないらしく涙目になった。

……不本意だが、女子がでこ出しした方がいいというのは理解できてしまう


…………かわいい

「でこ出せよ」
「やだ」
「出せよ、ほーらピンやる」
「餌付けするみたいに言わないでっ」
「何で総介がそんな可愛いの持ってるの」

確かに貴志部の言う通りだ。俺の手にはウサギのパッチンピン2つ、色はピンクと白だ。
福引でいらねぇのに当たっていつか名無しにやるつもりだったからちょうどよかった。

俺は逃げる名無しを無理やり座らせ素早く髪を掻き上げてピンを留める。
ピンで留まらなくてぴょんとはねている毛先は何とも心を擽らせた。

「かわいい」
「そそそっ総ちゃん!?どうしたの!熱!?」
「梅雨で頭がおかしくなったんじゃないの」

おい貴志部。

だが顔を赤くして頬に両手をあててあわあわ焦る名無しが愛らしい。
ペットを飼うとこんな感覚なんだろうか。
思わずこいつのふわふわしてる天パを梳く。
すると更にあわあわする。
おもしれぇ。

「どうしたの総介」
「ペットみたいじゃね?」
「ぺっペット!?私が?」
「あぁ可愛い可愛い」

それはわかると貴志部がふわふわと笑う。
やっぱお前も同じ気持ちか。
名無しは納得してないけど。


外からの雨音は相変わらず癇に障る。

……でも、




こんな発見があるなら梅雨も悪くないかもな。








(総ちゃんがご主人様とかやだ!)
(大人しく飼われろ)
(総介顔緩みすぎ)
(でこにちゅーしてやろうか?)
(いらない!)






梅雨明け記念。遅かった。甘やかす総介が書きたかった。天パって大変。←

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