short

□読書
1ページ/1ページ


※貴志部が気持ち悪い




「名無しさん俺だけを見てよ」
「やだよ」

先程からじっと貴志部大河という男に見つめられている。
一体これは何のイジメだろうか。
というか貴志部がこんな積極的なのには驚いた。
和泉は大人しそうな顔をしてタラシだが貴志部は違うと信じていたのに。神様そんなに私が嫌いか。


「その本面白いの?」
「貴志部にはわからない面白さだよ」
「君のことならなんでもわかるよ」
「気持ち悪いよ」


なんか背筋にぞっとしたものが伝わる。ストーカーに出会う時というのはこんな感覚なのだろうか。
貴志部はその反応でさえも嬉々するものを感じるのかにこにこしながら頬杖をついている。
やだ何この子本当に気持ち悪い。

こういう時は逃げても無駄なのだろうか。
いやでも逃げるしかないよな。滝君とかに預けれないかなこの子。

「帰る」
「一緒に帰ろうよ」
「だが断る」
「僕名無しさんと一緒に帰りたいな……」
「私は貴志部と帰りたくないな」
「ちっ」
「舌打ちしたよね」

こんなの貴志部じゃない。やめたげて!
この光景を見たら貴志部ファンは何と言うだろうか。
怖がるだろうか。喜ぶだろうか。それとも私を羨ましがるだろうか。
どれにしろ私にとって非常に不利な状況であるのは間違いない。





諦めよう




「帰らないの?」
「この章が終わったら帰る」
「ふーん」

とにかく周りの声や動きを全てシャットダウンするんだ。
さぁ本の世界へ入るんだ。

私が持っている本はジャンルで言えばミステリー・ホラーというやつで怖さの中に
科学的な「恐怖」という物に対する証明があってかなり面白い。
ミステリーだけだと何処か欠けるし、ホラーだけだとただ怖いだけだ。
この二つが掛け合した人はきっと素敵な人だろう。

「名無しさんってさ」
「……」

無視無視。
逆上されたら困るけどそうなったらもう仕方ない。
厄介な奴に好かれたもんだなと思いながらページをめくる。
貴志部は一度目を閉じて小さな溜息をつくと席を立った。
お、諦めてくれるのか。
内心そわそわしながら貴志部が去ってくれるのを待っていると貴志部はとんでもないことを言葉にした。

「名無しさんって男が好きなんだね」
「……」
「だって今朝も和泉と話してたし跳沢と教科書の貸し合いしてたし」
「……」

何処を勘違いしたらそういう結論に辿りつくのだろう。
ちらっと貴志部の方に視線を向けると彼はとても綺麗な笑顔をしていた。
だが、目はどう見ても正常な光を放っていなかった。

血の気を失った。

何だか貴志部に常人ならぬ違和感を感じて怖くなってしまい席を立ってしまった。
貴志部の口からくすっと笑みが零れる。


「名無しさんその本俺知ってるよ」
「それ最近ハヤってるミステリー・ホラーの話だよね」
「結局誰も幸せにならないんだっけ」
「事の発端はクラスに大好きな女の子がいた男子生徒が」
「どう足掻いても彼女が手に入らないことに気付くんだ」
「そしてね」

「やめて……っ」

貴志部が私の方に近寄ってくる。
まるで何かに憑かれたように一筋に私に向かって歩いてくる。


こつこつこつこつこつこつ



上靴が床を叩きつける音だけが夕闇の教室に響く。

やだ、助けて、
この子本当に怖い

逆上よりもっと

もっと

厄介だ


「そして彼はどうしたと思う?」



貴志部は何故あの時、立ったの?




「殺しちゃったんだ」




貴志部の手には本の中の男子生徒が持っている物と同じ物が、

私は思わず今の今まで持っていた本を落としてしまう。



かつん、


本が床に叩きつけられる音と一緒に何かが響いた。






「「そうすれば彼女は永遠に俺のものだ」ってね」




「いいなぁ」






ぐるんっと視界が逆転した。
何だろう眠い。



「好き大好き大好き愛してる愛してるなんて言葉じゃ足りないもっと愛してる」
「あんな男よりもあいつよりもこの席の奴よりも誰よりも誰よりも誰よりも誰よりも誰よりも」
「君さえいれば他に何もいらない」
「君が俺に好きって言ってくれればそれだけでいい」
「あ、でも」
「他の男と話されるのはちょっとやだなぁ」
「それ程君を」
「誰よりも」






「殺したい程、君を愛してる」






あの時逃げておけばよかった。










(これから木戸川はこの本と同じことが起こるんだ)
(まず名無しさんに近付いた男全てが消される)
(次に仲良くしてた女子が全員死ぬ)
(そして最後は)
(俺が)







久々にホラー漫画見た結果がこれだ。貴志部ファンごめんなさい。
ところで貴志部って一人称なんですか。←


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ