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□携帯
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※少し病んでる雪村がいます






俺は今、重大な任務を請け負っている。


今日も個人練習に付き合ってくれた名無し。普段から世話焼きな奴だがここまでくると罪悪感を覚える。
だが一緒にいれることは何よりも嬉しいし安心する。

けれども、名無しが片付けをしている時、事件は起こった。

名無しの携帯の着信音が鳴った。
何かと思い携帯のディスプレイを見てみると「木瀧」という名前があった。
……どういうことだよこれ。
興味本位でダメなことはわかっているがメールを開いてみる。
ケーキバイキングの誘いだ。これ完全に狙ってるよな。
しばらくして白咲からメールが来た。
やはり開いてしまう。
今度は練習に付き合ってほしいというメールだった。俺に付き合ってばかりはダメだという忠告まで付いている。

次に射月、真狩とどんどんメールが来た。

比例して俺の機嫌がどんどん悪くなる。

あいつは俺のなのに。
俺だけのものなのに。
俺を大切に思ってくれて世話を焼いてくれて
俺に笑いかけてくれて


「……はは」

不思議と込み上げてくるのは笑い声だった。
携帯を持っている右手に力が込められる。
今にも割ってしまいそうだ。


そうだ、割ってしまえばいいんだ。
割れば誰ともあいつは繋がらない。
俺だけを見てくれる。


「こんな携帯、いらないよな」


俺の声だけが部屋に虚しく響いた。


「雪村あぁぁぁっちょっお前何してんのっ!!」
名無しがかなり焦った顔で走ってきて携帯に手を伸ばした。
俺は容易く避ける。こいつに睨みをきかすことを忘れないで。
「な、何よ」
「いや」
「何もないなら逆パカしようとしないでよ」

こいつは何もわかってないんだ。
つまり無意識か。無意識で部員たちをたぶらかしているのか。
いやたぶらかしているのは部員達だ。
全部あいつらが悪いんだ。

「白咲達からメール来てたぜ」
「あ、あぁありがと」
「返さねぇけどな」
「どんな暴君!?」

名無しは状況をよく理解していないのかわたわたしている。
そんな姿も可愛い。まじ愛してる。
思わず口走ってしまいそうだったが俺が今口走りたいのはそんなことじゃない。

「雪村……?」

ずっと黙っている俺を心配したのか額に手を当ててきて「熱でもある?」と顔を覗き込んできた。

違う、

俺は自分の理性が押さえきれなくなった。

無意識に名無しの腕を掴んで睨む。

「お前は俺がいない間ずっと誰かと繋がっていたのか」
「?何のこと?」
「俺はお前が好きだ、大好きだ、愛してる。お前さえいれば他に何もいらない。ずっと一緒にいたい。
なのにお前はそうじゃないのか?俺の一方的な想いだったのか?」
「ちょちょちょっ雪村さん?」
「そんなの絶対許さないっ……」
「なんで泣きそうなの」

名無しに言われたとおり言葉を発する度にどんどん視界は滲んでくる。
俺、今重いとか思われたかも。
あいつは困惑しながらも俺を一番に心配してくれた。
だが俺の口は言葉を発することをやめない。

「だったらこんな携帯いらねぇよ!
お前が悪いんじゃない。この携帯とあいつらが悪いんだ。
今すぐこんな携帯壊してやるよ」
「雪村落ち着こう」

名無しは冷静に対処をする。
どんなことを言おうが冷静に対処する名無しを見るとイライラしてきた。
名無しは俺を見てくれてないじゃないか。
腹が立って歯軋りしながらこいつをきつく睨むと彼女の口から出た言葉は予想外だった。


「携帯がないと雪村と離れてる時間寂しいんだけど」
「……?」
「夜とかいつもおやすみって言ってくれて安心するし朝弱いのに私にメールしてくれるとことか」
「ばっ…っそれは」

彼女の普段言ってくれない台詞に思わず俺は感動してしまった。
あれは迷惑じゃなかったのか。という安心もあった。
いつも夜電話する前は緊張と不安でいっぱいだったが彼女は優しく対応してくれる。

「雪村よく聞いて」
「…」
「好き、大好き、愛してる、雪村しか見えない」

なんということだ。
俺は携帯を落としてしまった。
名無しにこんなことを言ってもらえるなんて夢にも思わなかった。
俺の心拍数はどんどん上昇する。

「じゃあ」
「うん?」






お前を監禁してもいいですか





(雪村、いくら好きでもそれはダメだ)
(じゃあせめて俺以外のアドレス消してくれ)
(ちょっと無理かな)




荒ぶる雪村。なぁにこれぇ。雪村はボコデレデヤンデレと信じてる。

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