short

□心配
1ページ/1ページ


雪村はいつもかっこいい。
雪村はそっけないのに女子にもてる。
雪村な見た目とは裏腹にすごく生真面目で頑固。
雪村は正直言って面倒くさい。
雪村は私を見るとすぐに頭をたたく。

全部全部、雪村豹牙という人間が好き。

雪村は、私のことが好きなのだろうか。


「……雪村だ」

図書の本を返してなくて友達に先に帰られ、先生に雑用を押しつけられた今日の放課後。
やっとの思いで終えた時にはもうすでに日が暮れていた。
今日は全部活動は停止させられていたので学校にはほとんど生徒がいない。
もちろん、サッカーコートなんてなおさらだ。
だが私の予想は外れた。

「こんな寒いのに」

思わず顔が綻びてしまう。
雪村は一応、彼氏という存在である。
だが雪村の性格なのか付き合って長いのにキスぐらいまでしかしてない。
お互い好きだったらそれはそれでいいのだが、雪村は本当に私が好きなのだろうか。
いつも私を見つけると理由をつけては髪を引っ張ったり蹴ったり叩いたりする。

「……あれ?これおかしくね?」

思い出すと彼女扱いされていないのがあからさまだが雪村から何も言い出してこない限り私が詮索するのは失礼だ。

雪村をふと見ると、横顔が真剣そのものだった。

「かっこいいなぁ」

階段にしゃがみ込みながら呟く。
呟いた言葉が白い息となり、天に昇っていく。
なんだかロマンチックだ。


雪村には私の想いが伝わっていますか




雪も大分強くなってきた。
携帯を開くともうすぐ7時になる。
そろそろ限界だろうと見つめていると雪村は着替えるためなのか部室に戻って行った。
コートにボールを残して。
「……」

なんとなく、本当になんとなくだがそのボールが気になった。
私はコートに下りるとぽんっとサッカーボールを蹴った。
ころころと冷たい地面を転がるだけでボールはうんともすんとも言わない。

「ほっ」

今度はつま先で強く蹴ってみる。
軸足が安定しなかったせいか凍った地面で滑ってしまい尻もちをついてしまった。

「いったぁっ……」
「おい」


雪村だ。

まずい、見られてた。


「あーうん、えー失礼します」
「待て」
気まずくなって疾風ダッシュで逃げようしたが雪村に髪を掴まれる。
地味に痛いのをこいつはわかっていないのか。お前のもみあげ引っ張りますよ。
「一緒に帰るんだろ」
彼はいつの間にか学ランに早変わりしてました。



帰り道、雪村はあまり喋る方じゃないので会話は発展するものではない。
私が一方的に話して「ふーん」と少しコメントを加えるだけで終了、みたいな感じだ。

だが、今日はそうはいかない。

お互い黙り込んでしまい、視線を合わせずらかった。かったというより現在進行形。

「……なんか喋れよ」
「え、うん?……なんで手繋いでるの」
「ちょっとそういう気分になっただけだ」
「誰?」

雪村はそっぽを向きながら私の冷え切った手を同じく冷たい手で握りしめる。
生憎今日は手袋を忘れてしまったので好都合ではあったが急にこんなことをする雪村に不安を抱く。

「今日の雪村ちょっと変」
「……変じゃねぇ」
「じゃあなんでこんなに近いの」

いつも雪村と私の間は人が一人割り込めそうな距離感で保たれている。
だが今日は肩が触れ合えそうなほど近かった。
これがデレ期なのか。

「お前がさ」
「うん?」
「俺がお前のこと好きじゃないとか思ってるんじゃないかって」
「雪村はエスパーだったのか」
「図星か」

雪村がつっこむ次いでなのか手を振り上げた。
今度はつねられるのか叩かれるのかだろう。
私は覚悟を決めて目をつぶる。

だが、いつまでも衝撃はこない。
代わりに唇に違和感を感じる。
「んっ……!?」
急なことで、口を開けてしまった。雪村は容赦なく舌を侵入させてくる。
ちょちょちょ、これは危ない展開じゃないのか。
角度を変えられ、何度も何度もディープキスをされる。
頭がくらくらしてきて、呼吸すらままならなかった。

やっと離してくれたと思ったら次は私を抱きしめた。

成程、つまり

「これが証拠ですか」
「俺の台詞をとるな」

仕返しと言わんばかりきつく強く雪村は私を抱きしめる。
段々と雪村の体温が伝わってきて私は居心地が良かった。

「吹雪さんから聞いていた通り男はみんな狼か」
「……なんだよそれ」
「雪村はどっちかというと豹か」
「訳わかんねぇ」


私は妙に納得してしまい、雪村をじっと見つめる。
頬は寒さのせいか抱きしめているせいなのか少し赤らめていた。

「名無し」
「何っ」
「……ん」


もう一度キスをしようか






(雪村、ここ公道って知ってた?)
(俺は公共の場でなんてことを……)
(なんで私叩かれるの)






雪村はボコデレと信じてます。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ