short

□花粉症
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「く、っしゅん」

肌を刺すような冷たい冬もそろそろ終盤を迎え、暖かい春がやってきました。
ぽかぽかのお日様にちょうどいい風に私は自分の体のことを忘れていたようだ。
暖かさに負けて休日のお昼前に散歩しに行って帝国学園に帰ってきた瞬間、肌がかゆくなってきた。
鼻腔がくすぐられたようになり、思わずくしゃみをしてしまう。

しかも、総帥の前で、


「あばばばば、すっすみませんっ」
「落ち着きたまえ」

総帥に注意された。恥ずかしい。
神様照美様助けてください。あ、目がかゆい。

心の中で荒ぶっていると総帥が書類に目を向けながらも私に色々と質問をしてきた。

「目がかゆいのか」
「えっあっはい」
「少し声が枯れているな」
「そうですか?」
「…………花粉症か」
「まぁ世間的にはそういうらしいですね」
「つらいか」
「それほどには」
「……」
「……」

私 の 馬 鹿 。


せっかく大好きな総帥が心配してくれてるのに業務的にしか返事が出来ない自分に腹が立つ。
思わず目尻が熱くなって、更にかゆくなってきたのでごしごしと制服の袖で目をかく。
かゆいものは仕方ない。
後で佐久間たちに「ざまぁ」とか言われるんだろうな。
大人になってから花粉症の辛さを思い知れ!

というかコンタクトが乾いてきた。
目薬目薬。あ、目が開けられない。

「総帥すみません目薬私の鞄から取っていただけると」
「ほう、私を使うのか」
「……自分で探します」

私は溜息をついて真っ暗な視界の中自分の鞄がある方角に体を向ける。
早く目薬を見つけなければ目の危機かもしれない。
なんとか涙が少し出たので涙で乾いた眼球を潤す。
私の姿に総帥が何を思ったのかのっそりと立ち上がった。

「私が取ろう」
「……めんどくさ」
「ほぉ」

総帥は面倒くさい人だと改めて悟って呟くと総帥は大人げなくも風を切って目薬を投げつけてきた。
私は普段から同じようなことを部員たちにされているので難なく目薬を受け取る。
その後に舌打ちが聞こえたのは、気にしないでおく。

「総帥は相変わらずの子供っぷりですね」
「お前ほどではない」
「どういう意味ですか」
「自覚していないのか」
「グラサンめ」
「ませガキめ」


総帥は勝ち誇ったように鼻で笑った。
目薬をさして総帥を睨むと総帥はいつもの定位置で書類の仕事をしていた。その姿を見て私は苛立ちを溜息で消化する。

この人本当にサッカー界を支配する人なのだろうか。
色々とやばい噂も聞くけど本当なのだろうか。
まぁ私にとってはどうでもいいが。

何はともあれ、私の尊敬する影山総帥であることは間違いない。
何より、この帝国のサッカー部が好きなのだから仕方がない。
私はもう一度溜息をつく。

「じゃあサッカー部の様子見てきますね」
「名無し」
「?はい?」

今日初めて名前を呼ばれた気がする。
総帥は私の名前を呼ぶとまた何か物を投げた。
ぎりぎりそれを受け取って見てみると最近発売された花粉症用の喉飴だった。

「……総帥ってかわいいですね」
「黙れ」
「でもありがとうございます」

私は早速一つ袋から取り出し、口の中に放り込む。
何かの薬草の味がしたかそれほど苦にはならなかった。

「体を大事にしろ」
「花粉症じゃ死にませんってば」


総帥がこんなに優しいなら花粉症でも案外悪くないかもしれない。






(あ、名無し先輩俺にも飴ちょーだいっ)
(成神は花粉症じゃないでしょー)
(何お前花粉症なの?まじざまぁ)
(佐久間ちょっとお話しようか)






花粉症ネタいいと思います。

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