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□朝
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南沢篤志とかいう男は寝起きが非常に悪い。
この間アイツに言われるままに起こしに行ったら無言で蹴られた。
しかもかなり強い力で。どういう神経してんの内申男。
ということでもう南沢なんか絶対起こしに行かないと心に決めたのも束の間。

いつもモーニングコールというものを頼まれているので南沢に電話をかける。
30秒ぐらい呼び出し音が鳴りっぱなしでもうコイツ起きねぇわと諦めて切ろうとしたら「……はい」と凄まじく機嫌が悪い掠れた声で南沢が出た。

「あ、おはよ」
「……ん」
「じゃあ切るね」
「やだ……」
おっとこの展開は。私は一刻も早く電話を切りたかった。
指が今にもボタンを押しそうだ。


「起こしに来い」


嫌だ。とは言えなかった。断った後の制裁が何よりも怖いからに決まっている。
暴君南沢なんかずっと夢の中で王様やっとけ。
……これ言ったら殺されるな。




南沢ママに了解を得て、南沢の部屋へと歩を進める。もう親公認って恐ろしい。
多分母親も起きない篤志様に困っているんだろう。きっとそうだ。
自嘲気味に鼻で笑い、ドアをノックしておく。一応しておかないと怒るらしい。
もちろん返事はない。
「南沢起きた?」

いや爆睡してました。
規則正しい呼吸で枕を抱きしめながらうつ伏せで寝ている。
そういえばこいつうつ伏せタイプだったっけ。一応ピンクの携帯は手の中にあるようだ。二度寝とかいい度胸過ぎて今にも噴出しそうだった。
というか
「睫毛長……」
やはり南沢はただのイケメンだった。幸せそうに寝ている顔は見ていてこっちも幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。
窓から差し込む光が眩しいのか出来るだけ布団でシャットアウトしようとしている。
どうしよう。かわいい。

とか言ってる場合じゃない。
私は今、重大な任務を背負っている。というか八方塞というやつだ。
起こせば南沢の蹴りが炸裂するか襲われるかのどちらかかだろう。
どっちにしろ私の死亡フラグはびんびんに立ち上がっている。
だが、起こさなければサッカー部のみんなに迷惑をかける。そして南沢に怒られる。犯される。
そして南沢は南沢ママや倉間には任せられない。危険すぎてそんなことは出来ない。

……よし。
覚悟を決めてとりあえず肩を掴み、揺らしてみる。

「南沢起きろー」
「……」
全く反応なし。
「起きろって言ってるのが聞こえないの」
「……うっせ」
びゅっと顔面の横で風を切る音がする。髪が風圧で後ろに全て収まった。
危ない。顔面蹴られそうだった。もう少しエースストライカーということを自覚してほしい。
「起きてって学校遅れる」
「遅れても…いい」
「内申内申内申内申」
最終武器の内申コールを南沢の耳元で呟く。
南沢からこれでもかという殺気が放出される。私殺されるかも。
とか思ってたら案の定ベットに引きずり込まれた。
スカートが嵩張ってて気持ち悪いが南沢は私をすっぽり抱きこむと私の頭に顎を乗せた。
「うるせぇってのが聞こえねぇのか」
「痛い痛い痛いよ南沢さん!」

甘い雰囲気になるかなとか思ってたけどそんなことはまさかなくて、
顎で頭をぐりぐりやられました。正直蹴られるよりもじわじわくる。
ぎゅっと南沢の服を掴むと「何誘ってんの?」というフェロモン全開な声で言われて思わず顔が熱くなる。お前のそれは凶器でしかない!
「というか起きたじゃん」
「いや気ぃ抜いたらまた寝る」
「起きろよ」
なんて我儘なんだ。と心底呆れて短く溜め息を吐く。
南沢は全然気にしていない。けろっとした顔をしながら私の嵩張ったスカートをきれいに直してくれた。さすが女子の気になることはわかるようだ。

「何お前今日ニーハイなの?」
「寒いからね」
「突っ込んでいいか?」
「何を?」
南沢はすがすがしい笑顔で私の足の方に視線を下ろし、ニーハイと素足の間に指を入れてきた。南沢の指があまりにも冷たくて上ずった声をあげてしまう。
南沢はくすくすと笑い、私の顔を見つめながらニーハイを伸ばしたり下げたりと楽しんでいるようだ。
本当に眠たいのかこいつ。

その後神童君から泣きそうな声で電話がかかってきた。
……私は起こしましたよ?
南沢が全て悪い。







(自分も楽しんでたくせに)
(だまらっしゃい歩く18禁男)
(また頼むぜ名無しちゃん?)






ただの変態南沢篤志。

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