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□お姉ちゃん
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いつの頃だったのだろうか、
自分の学校がサッカーの名門だったせいかマネージャーだったせいか仲が良かった子がエースストライカーだったせいか
私もそれに乗じてサッカーをはじめて、宇宙人が攻めてきた時に雷門のキャラバンにFWとして乗せてもらえるほど強くなった。
その友達は今は厨二病患者なのだけど。
とにかく私はサッカーが大好きになって高校を卒業したらプロを本気で目指そうとしていた。
だがそこで止めたのは親だ。
長女だからか1人しか娘がいなかったせいか安定な職業に就くことを勧められた。
その時の親の顔があまりにも必死だったので物わかりがやけによかった私は現在教師という職業に就いている。
しかし決して夢を諦めたわけではなかった。
どうしても未練があってサッカー部の顧問をしているわけだが、
「どうして私こんなに部員にいじられてるんだろう」
家で1人炬燵で温もりながら一言ぼそっと呟く。
私の右で宿題の質問をしていた快彦は目をぱちくりとさせ、左でみかんを頬張っていた総介は何言ってんだこいつと顔をしかめてこちらを見た。
この子たちも一応私の教え子というものでサッカー部でも一緒である。
兄弟で好きなものは似るというが同じ学校で同じ部活というのは相当似すぎだと思うのは私だけだろうか。
「どうしたの名無し姉さん」
「頭でも打ったか」
「黙らっしゃい総介」
腹が立ったので総介が一生懸命白い部分を除いたみかんを素早く口に頬張る。
すぐに気付いた総介は舌打ちをして私の頭を叩く。
この思春期は加減というものを知らないらしい。叩かれた後の衝撃で物凄い音をたてて机と額がごっつんこした。
え、古い?あぁうん、歳だから。
「兄さん!名無し姉さんがかわいそうだろ!」
「何かこいつのどや顔見てたら無償に腹が立った」
凄まじく理不尽な理由だ。
そういえばこの間和泉君に頬をつねられた。
何するの、って聞いたら「どや顔むかつく」と言われたのを思い出した。
「何だみんな理由は一緒か」
「姉さん……」
快彦が苦笑しながら憐れんだ視線でこちらを見てくる。
みんな私を完全に舐め腐っている。一応天才エースストライカーとポジション張りあった実力なんだけど。
そうか、みんなの前でサッカーしないからか。いいよ実力見せてやろうじゃない。
私はなんだか投げやりになって机に突っ伏す。
快彦が私の頭を小さな手で撫でてくれた。
この子は本当にかわいいと思う。私の癒しです。
勢い余って快彦に抱きつくと真っ赤な顔で「や、やめてくれよ姉さん!」と押し返された。
やっぱりこの子も中学生でした。お姉ちゃんはちょっぴり悲しいです。
総介は面白くなさそうにこちらを黒目がちな目でじっと見つめていた。
もうこの子もかわいいなぁ!
快彦は「俺教科書持ってくる!」と言って二階の自分の部屋に走っていってしまった。
なんのことだろうと思って机に放置しているノートたちを見ると確かに教科書がなかった。
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。やはり中学生の男の子は自分から話を持ち出すのが苦手なのだろうか。
かといって私から話しかけるのもなんだか癪なのでとりあえずテレビのリモコンに手を伸ばす。
が、その手は総介によって止められた。
驚いて総介の顔を見る。
総介は真面目な顔でこちらを見つめていた。
私は心の隅で何かを感じ、優しく総介と向き合う。
「何?」
「……あのさ、」
「うん」
総介は目を反らしてちらちらとこちらを見ながらみかんを弄んでいた。
言いだしにくいことなのだろうか。勉強で何処か不安があるのだろうか。
それとも進路か。進路なのか。
私がそんなことを考えていると総介の口から出たのは予想もしていなかったことだった。
「プロ……行きたかったんだよ……な」
予想をしてなかっただけあって私は思わず「はぁ?」と素っ頓狂な声をあげてしまった。
総介は「あれ?違ったっけ?」とみかんを強く指の腹で押した。
「いや、うん、行きたかったけど」
否定することは出来なかった。今でもその夢は諦めることは出来ない。
だが、なんで急にこんなことを聞くんだろう。
総介に尋ねると私の左手に総介の右手がそっと置かれた。
急なことで私は体が強張る。
「俺が名無し姉さんをプロの世界に連れてってやるよ」
そこで思い出した。
昔私が両親にプロ行きを反対された時に小さかった総介が私に「俺がプロになって姉さんの夢叶えてやる!」と意気込んでいた。
当時の私は小さい子の戯言だと思いながらも嬉しかったものだ。
だが総介は真剣だったのだ。
「……期待してるよ、エースストライカー君」
「おう期待しとけ」
そのまま総介は何を思ったのかのっそりと私の横に移動してきて私に体を預けて目を閉じた。
しばらくして規則正しい寝息が聞こえてくる。
私はなんだか居心地がよくて静かな時間が流れているななんておばさん臭いことを考えていた。
「あー!!兄さんずるい!!」
……快彦が総介に飛び蹴りを食らわせるまでは。
その後私を挟んで喧嘩が始まり快彦が泣かされて私に泣きついてくるということがあった。
まぁいつものことである。
そして私はまた総介に殴られた。暴力反対だ。
なんだかんだいって愛されてるなぁ私。
(先生、むしゃくしゃしたので髪の毛ぐしゃぐしゃにしていいですか?)
(何を言うの貴志部君)
(一応尊敬はしてますよ)
(してないよね!?あぁ髪の毛ぐしゃぐしゃにしないで!!)
滝兄弟長女。友人はもちろん豪炎寺さん。