白竜と

□二年生
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「ななし!!」

朝、いつものように浜野君が背中に飛びついて来た。
もうこれには慣れた。慣れって怖い。
浜野君ごと自分の席に移動すると浜野君は目をキラキラさせて何か言葉にするのを待っているようだ。
何、その期待するような目は。一体君に何があったの。
怪訝そうな目で見つめると浜野君は嬉しそうにとんでもない言葉を口にした。

「修羅場どうだったの!!」


咽た。



それはもう盛大に。
浜野君の声はよく通るので皆朝の会話を一度止めてこちらをじっと見ている。
やめて、あれはもう解決した。私の黒歴史を掘り返さないでほしい。
それに君あの時空気を読んで具合が悪くなった私を介抱してくれたよね。
あれ?時間を置いてもう聞いても大丈夫だと判断したの?何て計算しつくした子!

ひそひそと私を横目で見ながら隣の子と話している子も居れば面白がって他クラスに広めてる男子もいる。
私は焦って「そういうんじゃないから」と冷静を装って返事する。
するとクラスの雰囲気はほっとしたような、がっかりしたような雰囲気になった。
何だ皆、これだから中学生は。
何故人の恋路に茶々を入れたがるのか不思議だ。
私が唸りながら浜野君の質問攻めにどう答えようか迷っていた時だった。
後ろの扉が勢いよく開いて思わず肩を強張らせる。

「ななし!!いじめられたって本当か!!」


背びれに尾びれがついてます。霧野君。


あと相変わらず可愛らしい容姿なのに男前ですね。
ずかずかと私の前まで大股で来てばんっと机に手をつく。
大きな音に浜野君と一緒に身体を震わせ恐る恐る霧野君の顔を見上げる。
霧野君は素敵な笑顔で私達を見ていた。

「そいつのクラスと名前教えろ」
「落ち着いて霧野君!!」
「あちゃー霧野ご乱心」
「浜野君のせいだよ!!ねぇ!!」

浜野君の肩を掴んで勢いよく揺らすと浜野君は頭を掻きながら「めんごめんご」と古いネタで謝ってきた。
うわぁ腹立つ。
霧野君に必死に弁解する。霧野君は少し怖い顔で事情を聞いていたがこれで納得して帰ってくれるはずだ。
と思った私が馬鹿だった。

「その1年のクラスと名前」
「え、いや、でも私も悪いところあったし」
「ななしを侮辱した」
「霧野!今日お前おかしいっちゅーに!!」
「俺は至って冷静だ」
「冷静じゃない人がいう台詞っしょ!?」

浜野君が必死に霧野君を止めていると倉間君と速水君が恐る恐る教室に入って私達を素通りしようとした。
私はそれを逃さない。

「おはよう倉間君速水君」
「おい呼ばれてるぞ速水」
「ぼっ僕ですか!?」
「君もだよ倉間君」

やだ、もうこの子達薄情。絡まれたくなかったのか倉間君は我関せずといった顔をしている。
くそ…何だこの子!!
浜野君が二人に助けを求める。
だが倉間君は始終知らぬふりで速水君は焦って「そ、そんなの知りませんよ!」と頑なに否定している。
そうか、霧野君が怖いのか。彼を怒らせると面倒くさいということはこの1年ちょっとで分かっているのだろう。
現に霧野君は私に「名前、クラス」と笑顔で聞いてくる。
ちょっ、え、だから無理だって。
ひたすら顔を横に振り続けて何度も断るがその度に掴まれた肩はみしみしと音をたてる。
あれ?霧野君ってこんな子だったっけ?私数週間前は目の敵にされてたよね。
焦りからなのか痛さからなのかよく分からないけど汗が全身から噴き出してきた。


そろそろ収拾がつかなくなってきた所で先程霧野君が入ってきた扉から例のあの人が顔を出した。



「ななし!!いじめられて振られたって本当か!!」



はいデジャヴ。
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