白竜と

□再び
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どうしてだろう。


昔から何事にも興味が無く、サッカーと出会ってからサッカーしかしてこなかった私が、

―唯一手放したくなかったもの



「白竜……」

携帯越しに葵ちゃんの声がする。
どうやら周りには剣城君や松風君達がいるようだ。
白竜はいないのだろうか、と不安になって耳をそばだてていると西園君の「白竜!?」と呼ぶ声が聞こえた。
どうやら白竜は外に飛び出していったらしい。

もしかしたら、

期待してはいけないと思えば思うほど、私の胸は期待でいっぱいになる。
駄目だ、期待しちゃ、受身になってちゃだめだ。
もう面倒くさい馬鹿王子じゃすまない。
私の心はぐらぐらと揺れるがイマイチ定まらない。

「名無し」

そんな時、シュウが私に優しく呼び掛ける。
振り向くと急に右腕に圧迫感を感じ強い力で身体が引っ張られる。
シュウが私の腕を掴んで外に出ようとしているのだ。
シュウは私に今までで一番の笑顔を向け私に問いかける。


「本人に直接言ってあげたら?」



少し戸惑ったがもう迷っている時間は無く、携帯を再び耳に持っていき葵ちゃんに切ることを伝え、鍵をひったくるようにポケットに入れる。
勿論サッカーボールを持っていくのも忘れずに。
白竜と私を繋いでくれた唯一のものだ。
これを無くして仲直りは出来ないと心の底で感じた。


「白竜……っ」

今までで一番速いんじゃないかと錯覚するほど私は全力疾走する。
段々肺がひりひりと何かが刺さったような感覚に陥り、喉が圧迫して上手く息が吸えない。
正しい走り方をしていなかったためか、スニーカーが合ってなかったのか途中から足の裏が攣ったように痛い。
だが、私は走ることをやめなかった。
早く、早く白竜に会わなきゃと頭がいっぱいでそんな余裕がなかったのだろう。


だがそれと同時にふと私は何故こうなったのか考える。

ゴッドエデンの時は気付かなかったが白竜はモテる。
白竜を尊敬する男子ばかりだったから油断していた。だから私は白竜が私だけを見るのは当たり前のことだと思っていたのだ。
けれども現実は白竜には私が居なくても自分を好いてくれる存在がいる。
もっと器量が良くて、優しくて、笑顔がかわいい女の子はいくらだっている。
それでも白竜は私の傍を依然として離れなかった。何故だかは未だに理解が出来ない。
そのせいなのか口や表情には出さなかったもの私は劣等感を少なからず感じていたのだろう。

だから白竜が私の知らない子からラブレターをもらってそれを読まないで破ってしまうことに恐ろしい程の嫌悪感を感じた。
白竜の不誠実な行動に呆れていたこともあったがそれ以上に私はいつか白竜をとられてしまうんじゃないかという不安に陥っていた。
これからも諦めずに白竜に思いがぶつけられていつか私の傍を離れてしまうんじゃないかと。
全く、自分が嫌になる。

―それでも、自分は卑怯だと感じても。

私はそこまで心の中で表して考えることをやめた。
目の前に白竜の後ろ姿が見えたからだ。



「白竜っ!!」





右腕を軽く振り、サッカボールを宙に上げる。
それにつれて私も軽くジャンプし落ちてくるボールを蹴り、ボールは白竜へと向かう。
私の声に気付いたのか白竜は瞬時に身体を反転させてサッカボールの威力を相殺する。
全く無駄のない動きだ。
相変わらずその姿に目を奪われてしまう。


「名無し……」
「……白竜」

お互い、見つめ合う。

言うべきことはお互い分かっていた。




「すまなかった」
「ごめん」
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