白竜と

□自覚
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「ななしー」

神童君の一件もあって少し遅れて教室へ戻ると浜野君が私を呼んだ。
何だろうと思って駆け寄ってみると超笑顔で肩に手を置かれる。

「祝、修羅場」
「えっ」
「まぁ頑張って」
「浜野君?」
「あそこにいる子がお前のこと呼んでたー」

そう言った浜野君は笑顔でその場を去りその後ろから倉間君は無表情に、速水君は気まずそうに去って行った。
どうしたあの三人組。どういう状況。
落ち着くために紅茶を口に含む。少し温くなってしまったようで苦い茶葉の味がした。
うぇっ最悪。何だか口の中がいがいがする。
気持ち悪い感覚のまま前扉に向かう。
あら可愛い。黒髪ストレートの可愛らしい子が申し訳なさそうに立っていた。

「あれ……?」

昨日この子とすれ違った気がする。確か、帰る時だったか。
清楚で可愛らしい子だったのでよく覚えている。
その子が私に何の用だろう。考えを巡らしてみるが全て最悪な結末が訪れるので考えるのをやめた。

成程、浜野君そういうことですか。

つまり、


「修羅場突入ってこと……」
「はい?」
「いや何でもない」
「あのっ」

声も可愛らしい、くっこれは女子として負けた。
リボンの色からして1年生だろう。え、やだ私が苛めてるみたいだ。
……じゃなくて、

この子が白竜にラブレターを送った子だ。間違いない。
私が白竜と同居していることを知っての行動だろう。
要するに、ラブレターの返事が早く聞きたいんだ。
白竜からだと恥ずかしいからそれを知っている私から聞こうと。
何てずるい。だが、こんな大人しそうな子ならそうするのも仕方ない。
悪いが白竜は諦めてもらおう。あいつはあなたに眼中にないよ、と率直に言えるだろうか。
取り敢えず謝らなければ、身内がラブレター破ってしまったのだから。


「ごめんね白竜が」
「えっ……」
「馬鹿だから対応なってなくて」
「あのっ!!」

びっくりした、こんな大きな声を出すんだ。
少しびっくりして口が開く。

「……先輩は、白竜君と付き合ってるんですよね」
「浜野君達から聞いた?」
「どうなんですか」
「付き合ってるよ一応」
「別れてくれませんか」





…………え?

今、何て言った?


別れて?何言ってるのこの子、
そんなこと出来るはずない。だって白竜は、

「ずっと見てましたが先輩は白竜君のこと弟位にしか見てませんよね?そんなの白竜君が可哀想です」
「……」

そんなはずない、だって白竜は、白竜は私の、


「私の方がもっと白竜君のこと好きになってあげられる、もっと大事に出来る」
「馬鹿なことっ」

顔に熱が集中して我慢ならなくなって反論しようとしたが、言葉が何も出てこない。

私の思考回路は完全にショートした。

驚いた。彼女の言葉にこれだけの力があったとは。私がこんなに取り乱してしまうとは。
まるでトリックアートでよく見る終わりが見えない階段を駆け上がってるような体力の激減を感じた。
冷や汗と、熱気に満ちた汗が両方出てくる。
身体が気持ち悪くなって吐きそうだった。



――白竜は私にとって、何?


仲間?家族?弟?違う、そんなんじゃないはずだ。
仮にも彼は私の恋人なはず、なのに、


何でその言葉が白竜の顔に一致しないんだろう。



一度疑ってしまうともう後には戻れなくて私は頭が真っ白になった。
急に頭が痛くなってその場で倒れ込んでしまう。
トイレから戻ってきた三人組が真っ青な顔して駆け寄ってきて私の体を支えてくれた。




もう、やだ、何も考えたくない




結局私はその後の授業は受けれなくなり早退するように勧められた。






「名無し……?」
「……何」
「カーテン開けなよ、目が悪くなるよ?」
「めんどくさい」

私の返答にシュウは溜息をついて私に寄り添う。
これじゃまるでシュウが私の恋人だ。
でもシュウはそういう目で見れない。最初に会った時からずっと親友として見てきたから。
だけど白竜はどうなのだろう。
初めて会ったのは私があるチームのキャプテンをしていた時だった。
年齢上私の方がゴッドエデンに入るのが早かったのに白竜が実力で伸し上がってきて。

……嫌味を言われたことしか思いつかないが。

目の前に立っているラックの上に視線をやるとゴッドエデンの皆と一緒に撮った写真が視界に入った。
牙山さんの目を盗んで青銅君が撮ろうと言いだして撮ったんだ。
皆笑顔だ。シュウと私、勿論白竜も笑顔で映っていた。

いつから白竜と付き合っていたんだろう、告白はどちらから?そもそも告白というものが存在したのだろうか、

何とか昔に浸ってみる。
目を閉じる。



初めて白竜がキャプテンのチームと試合をすることになった。
それまであまり白竜のことを知らなかったので特に気には留めていなかったがあちらは私を知っていたようで目が合った瞬間鼻で笑われた。

「お前がななし名無しか。噂には聞いているがそんな細い体でゴールを守れるのか」

酷く嫌味を言う男だと腹が立ち罵倒してやろうと思ったが私は年上。ぐっと言葉を飲み込んだ。
そもそもこのゴッドエデンを牛耳っていたのは正確には私であって白竜ではなかったので後輩の戯言としか思わなかったこともあって冷静に対処する。
「あぁ」とか「うん」とかで済ますはずだったのに口は勝手に動く。

「まぁ守れるか守れないかは自分の目で確かめて、自分じゃよくわかんないし」

いつもな無視するはずなのにおかしい。
どうしたの私。
白竜もそれに驚いたのか震えながら黙ってしまった。
私も何だからしくなくて白竜に背を向けた後、顔に熱が集中した。
心が少しもやもやして、くすぐったくなった。
白竜には負けたがその後白竜が話しかけてくれて何だか嬉しかった。
嬉しいと思う私が居てそんな私は初めてだった。



あ、何だ



「一目惚れか」
「え?」
「いや」
「……名無しどうしたの」
「何」
「ちょっと嬉しそう」
「え」

気を抜いた途端顔が緩んでしまったらしく手を当てると頬がゆるゆるだった。
シュウが笑うのでこっちも嬉しくなって微笑む。

「ねぇシュウ」
「ん?」
「白竜と私って一目惚れ同士だった」
「へぇそれはロマンチックだね」
「だから自然と出会った瞬間から付き合ってるような感覚だったんだ」
「うん」

お互い好きだとわかった瞬間、私は自分が年上なんだか白竜を助けてあげなくちゃ、と思いすぎたのかもしれない。
当然だ、白竜を大事に思っているのだから。


「年下だから弟に思うのは仕方ないんだよね」
「えっ」
「え?」
「……いや」

「結局好きなんだよね白竜が」


真っ直ぐシュウを見つめるとシュウは満足したように溜息をついて微笑んだ。



「名無しは僕の親友なんだからさ」
シュウに頭を撫でられる。



「幸せになってくれなくちゃ」
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