雪村と

□ポジション
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もくもくと作業するマネージャーの私。
こちらを凝視してくる雪村。
視線で穴が開くんじゃないかってぐらいこちらを見ている。見るな、雪村。
あの後貴志部が学級委員の如く怒って私を庇ってくれた。
こんなに親身になってくれる人は始めてだ。
まぁ白恋では雪村を怖がって誰も逆らえなかったしね。

「ななしさんドリンク運ぶの手伝おうか?」
「いや、一人で運べるから大丈夫」
「え、でもその量……」

確かに一人で運ぶのは量が多いかもしれない。だが貴志部も色々と大変だろう。
ただでさえ雪村のことで迷惑をかけているのだからこれ以上迷惑をかけていられない。
何とか運ぼうと意気込み、持ち上げたが少しふらついてしまいおおぉ大丈夫かこれ!!と思ったら身体が急に軽くなった。

「えっ」
「ん」

滝が無言で一つ持ってくれてそのまますたすたと先に行ってしまった。
我に返った私は急いで滝のあとを追いかける。
木戸川の男子って皆こうなのか……清水は朝笑顔で寝癖ついてるって耳打ちしてくれたし滝弟は礼儀正しくていい子だ。
あれ?本当木戸川に転校しようかな。

「滝っいいよ疲れてるだろうし」
「女がふらついている方が疲れる」
「非力ですみません」
「ばーかそういうことじゃねぇよ」

ふらついている所見られてたのか…と恥ずかしさ半分申し訳なさ半分で滝に謝ると微笑みで返された。
うわ、これが普通の中学生ってやつか。
不覚にも滝の仕草に胸が高鳴ってしまった私。
折角なので世間話に花を咲かせる。木戸川での練習メニューとか化身の話とか。
滝の性格上女子と喋るの苦手なのかな、と思ったがそこそこ喋るらしく同じクラスの男子より喋りやすかった。



「……おい」


それを雪村が見逃しているはずもなく。



「何だよ雪村、男の嫉妬は醜いぜ?」
「嫉妬じゃねぇよ!!俺のものとるな!!」
「ほらそれが嫉妬だ」
「違う!!」
「じゃあ何なんだよ」
「名無しは俺のだ、お前なんかに渡さない」
「……」
「その憐れんだ目やめてくれる滝」

ぎゃんぎゃん犬のように吠える雪村、話が通じなさ過ぎて終いには滝が私の方に憐れんだ視線を送ってきた。
だからそれやめろって。
「どんまい」と手を肩に置かれて慰められる。
だからやめろって、と言おうとしたら目の前を何かが切った。
いや、間違いなく雪村の手だ。直後、ばしぃっ!!と鋭い音がする。

「ってぇ……」
「ちょっ雪村!!滝大丈夫?今冷やすものっ」

「お前は、敵だ」


雪村は憎しみを込めた目で滝を睨んだ。
滝は状況を理解してないらしく通常運転の私はドリンクが入っているクーラーボックスから発掘された保冷剤を滝の手に当てる。
怪我したらどうするの雪村。
というかこの間とられるとかどうでもいいって言ってたの何処のどいつさん。
「ごめん滝、自分でこれ支えてて」と私が手を離した直後に次は私の手が叩かれた。
滝はその光景に驚いて目を見開く。

やだ、雪村暴走。

叩かれた手の甲がひりひりと痛みが走る。
暴力禁止令が出てるのに雪村は構わず私のジャージの袖を掴み自分の方に引き寄せる。
周りは貴志部も居ないので注意する人は誰も居ない。
つまり滝を助ける人は私しかいないのだ。
でもどうしよう。雪村がこれだけ感情的になるともう手が付けられない。
かと言って恋愛の揉め事でチーム破綻なんて冗談じゃない。
それはサッカーが好きな雪村も嫌だろう。雪村は感情的になっていてそんなこと考えてないだろうけど。


「お前本当面倒くさいやつだな」
「……」
「シカトか?」
「……名無しが好きなのか」
「はぁ?」

ど う し て そ う な っ た

相変わらず雪村のぶっ飛び思考回路には驚かされる。
ただ会話していただけだ。学生ならそれが普通だろう。
何故滝が私のことを好きだという結論に至った。
この数十秒でお前の頭はどう回ったんだ。


「いやいやいやそんな訳ないでしょ雪村落ち着け」
「名無しは黙っとけ」
「…………だったら?」
「え」
「ななしの事好きだったらどうなんだよ」
「え、ちょっ滝」
「……やっぱお前は敵だ、殺す」
「はっやってみろよ!!」

バチバチと私を挟み、火花を散らし睨みあう二人。
嫌ぁぁぁ面倒くさくなったよ!!恋愛絡みって部活じゃ一番しちゃいけないことだと思うよ!!
何とか二人から抜け出して貴志部と南沢さんの所へ走る。

「貴志部!!南沢さん!!助けてください!」


貴志部は泣きかけている私にうろたえながら頭を撫でてくれ、南沢さんは「どうした?」と冷静に状況を聞いてくれる。私の心のオアシス!!

「おい名無し逃げんな!」
「雪村勝負だ」
「はぁ?」
「ポジションとこいつを賭けて俺と勝負しろ」
「…臨む所だ」


滝と雪村が来た時二人は「あぁ」と納得の声をあげた。だろうね。
私は我慢できなくなって涙を流し始めると皆動きを止めてこちらに走ってきて慰めてくれた。
女の子というものは本来こんなに丁寧に扱われるものなのだろうか。
ほら見ろよ白恋の落ち着きっぷり。奴等普通の顔でドリブル練習してるよ。


もう嫌!!



(ななしさん大変だね…)
(俺何だかお前が可愛く見えてきた)
(奇遇ですね南沢さん俺もですよ)
(それって可哀想だからってことですか?)
(うん)
(あぁ)
(もう嫌……)





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久しぶりの雪村更新。滝が本気で言ったかどうかは謎。愛されになってきた。寧ろ憐れみで愛されになってるような。
記憶が曖昧なのでもし何か違ったら報告か生温かい目で見守ってください。

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