雪村と

□革命
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「俺よりあいつの方が大事かよ!!」
「雪村っ」

雪村は自分の声帯が傷つくことも恐れず力任せに叫ぶ。
エコーがかかり何回も雪村の台詞が私の脳内に響く。
え、どうしたの雪村。
話しかけるなと言ったのは雪村じゃない。
私に一体何の非があるというんだ。
そんな私の思いを余所に雪村は私の腕を掴む力を更に込める。
どうやら雪村も私も、お互いに余裕がないのは一緒らしい。


「いっ……」
「何でだよっ……何でなんだよ」
「雪村、訳を」
「俺はこんなことしたくてお前を突き離したんじゃねえ!!」
頭上から降ってきたのは雪村の涙、雪村は嗚咽を漏らしながら涙も、鼻水も拭こうとしない。
多分それは私を離したくないからで離すと逃げてしまうと思ったからだろう。

「どういう意味……」
「俺はっ、おっれ」
「取り敢えず涙拭いて」
「離すとお前逃げるだろ!!」
「……いいから」

痺れを切らした私は雪村の利き手じゃない左手を振り払いポケットからハンカチを取り出し雪村の涙を拭く。
雪村はそれに安心したのか、もう片方の手を離し、私に体重を乗せるように抱きついてきた。

何だ、やっぱり私のことが嫌いな訳じゃなかったんだ。
手首が痛いと思いながらそう思える私は雪村が好きなんだなと再度自覚させられてしまう。
じゃあ何故雪村は私を遠ざけたのか、そこに視点が行くが雪村は自然と理由を話し始める。

「俺っ革命選抜の話聞いてっ」
「うん」
「名無しがマネージャーやるってっ」
「うん」
「他校の奴等とも交流しなきゃなんないだろうから俺が我慢しなきゃと思って」
「うん」
「でも俺やっぱっ名無しに構って欲しくて」
「うん」
「近寄るなって言えばっお前の頭ん中は俺でいっぱいになるかなって」
「……うん」

今の、幻聴かと思った。
其処まで歪んだ考えを導き出すほど雪村は悩んでいたんだなと同情心すら芽生える。
つまり雪村は他校の生徒に私を渡したくないと思っていたがマネージャーという立場上邪魔することは出来ず、
その業務時間が長くなるにつれて自然と雪村と会う時間は減る。
更に他の選手の面倒を見ないといけないとなると雪村個人と話す時間なんて一日に数分程だ、と考えたらしい。

「…何でそういう方向に行くの」
「だって、俺」
「雪村」
「…関わってほしくないなんて嘘だっ、話しかけるな何て、嘘だ」
「大丈夫だから」
「他の奴にとられたくないんだよ……っ!!」

その台詞を合図に、雪村は声を上げて泣き出す。
私はただ雪村の背中を軽く叩いて泣き止むまで待つ。



自分で、自分をずるいと思う。

雪村はやり方はともかく、こんなに真正面からぶつかってくれるのに、私はいつも上手い具合に避けてしまう。
雪村に依存はしてるが、彼からの好意に結局何も答えていない。
自分が嫌になる。



だから、

だから今日位は





「名無しっ」
「黙って」

―素直になってもいいのではないだろうか。





ジャージの襟を掴んで雪村を私の方に引っ張る。
唇が触れ合うだけのキス。
だが私にしては上出来だと思う。
終わった途端に恥ずかしくなって急に体温が上昇した。
あぁやっぱ駄目だ。するんじゃなかった。
こういうことは雪村からしてもらわないと恥ずかしすぎて出来ない。
雪村も雪村で涙も完全に止まり、恥ずかしそうに、嬉しそうに笑みを浮かべている。

「これで仲直りでいいでしょうか」
「なんで敬語なんだ」
「あっ近寄らないで叫びそうだから」
「……なぁ」

近寄るなと言ったのに雪村はお構いなしに私を抱きしめる。
こんな甘い雰囲気になる予定はなかった。
だが私が素直になったことで雪村は今からのことはどうでもよくなってしまったらしい。
雪村の表情を見てもわかる。
勝ち誇ったように、にやりと意地悪そうな顔を浮かべて私を見つめる。
あぁぁぁだから恥ずかしいって!!今日の私は余裕がないんです。


「言ったろ、逃がさないって」
「雪っ」
「もうとられるとかどうでもいい」
「……」
「俺が、離さなければいいだけの話だ」



雪村爆発しろ!!






それが私と彼の、小さな革命だったのです。








(ななし遅かったね)
(……ちょっと)
((あぁ仲直りしたのか)よかったね)
(全て悟ったように喋らないでくれますか)
(何で敬語)
(あとね、雪村握る手そんなに力込めなくていいよ)
(逃げるだろ)
(逃げないよ)







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軽い気持ちでやってしまった主人公攻め事件。映画の雪村が可愛すぎて甘めにしてみました。仲直りしてよかったね!
……雪村の一人称・僕らしいですね(小説談)。もういいよ俺で。←

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