雪村と

□フィフスセクター
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「どうすんの……」

何と後半に入って影山という選手が参戦してからダブルウィングは完成し、雷門は2点一気に入れてしまいと踏んだり蹴ったりだ。

「同点は痛いよなぁ……」
雪村の顔も焦りが見え始めて私も先程からドキドキと心臓がうるさい。
あぁもうどうすんの!もどかしい!
絶対障壁が破れた以上白咲1人だと不安だし雪村は後半に入って全体的に不安定だし。

「石」
「うっす」
「えっ何しようって……」

何と、あの石を熊崎はフィールドに入れたのだ。
え……っだってあいつは。
私の心は更に掻き乱される。
雪村も辛そうな顔をしてポジションにつく。

「試合が荒れるな」

誰かがベンチで呟いた。

確かに、その通りだと思う。
白咲は石に加担していて「石にボールを回せ」と皆に声を掛ける。
本気であいつ終わったら殴る……っ!!


白恋が不穏な空気になったところで試合が再開された。

「何も起こらなきゃいいけど……」

石を試合に出したということは何か理由があるのだろう。
何もないはずがない、という予想通りに石は随分ラフプレーだ。
極めつけに雷門のゴールキーパーにわざと当たって怪我をさせた。

「…………」

これは、

怒っていいのだろうか?

雪村もかなりお怒りのようで石に食ってかかっている。
当たり前だ。雪村がしなきゃ私がするところだった。
雷門のキーパーの手当をするため全員が一度ベンチに戻ってくる。
皆の顔が辛そうだ。

「どうして」

何だろうこの試合。吐き気がする。
どんだけ白恋が頑張っていてもどんだけ雪村が頑張ってても何だか吐き気がする。
どうしてだろう。八百長試合なんて今まで何回も見てきたし何回も応援してきた。
それはもう仕方のないことだと腹を括ってずっとベンチから見ていた。

「どうして……」

何で雪村はあんなに辛そうなんだろう。
負けそうだから?石がラフプレーしたから?吹雪先輩がいないから?
私はそんな雪村見たいわけじゃない。
私は、こんな試合のためにマネージャーをやっているんじゃない。
私はこんなことを望んでいるんじゃない。


いつだっただろうか。最後に雪村の笑顔を見たのは。
いつだっただろうか。サッカーを心から楽しんでいる雪村を見たのは。

「ななし先輩……?」
「えっ?」

隣に居た射月に驚いた顔で見られ振り向くと手の甲に生温かいものが落ちてきた。

「泣いてるんですか……?」
「……あーうん」
「なんですかその返事」

白恋は勿論、ベンチにいる雷門の選手までも私を見た。
皆鳩が豆鉄砲食らったように驚いて目を見開いている。
当然だ。突然マネージャーがベンチで泣き出すのだ。
私も今初めて自分が涙を流していることに気付いた。
「本当大丈夫ですか?」
「うん」
大丈夫、と言い目を力任せに擦る。
隣のベンチを見ると吹雪先輩どころか円堂さんまでがこちらを辛そうに見つめている。
何だか恥ずかしい。

雪村が通り際に私の頭に手を置いて決心したように走り去った。
私は何故だかそれにほっとした。





雷門のキーパーは革命児の松風君。
皆勝利を掴もうと必死にゴールに近付くが雷門全員がゴールを守ってなかなか進まない。
石もそれに腹が立ったようで無理矢理切り込んでゆく。
だが雷門のディフェンス陣はしっかりカバーする。

「……」

これがサッカーというものなのだろうか。
私はちゃんとした公式戦を此処最近見ていなかったのでよくわからなかった。
だが妙な納得がいった。

石はそんな雷門を笑う。
何だそれ。笑いたいのはお前だ。
そんなダサイ奴から点数をとれないのは白恋の方だ。
そんな暴言は全部雪村が代わりに言ってくれる。

白恋がぎすぎすしている中でまた雷門に1点入れられてしまった。


「ななし先輩」
「ん」
「俺達のサッカーってこれで本当にいいんですかね」
「私も今そう思ってたところ」

心の中で何か晴れてくる。
馬鹿か私は。今まで何をやってきたんだ。
いつもなら私には関係ない、気に入らないで全部無視してきたじゃないか。

今回だって、




――雷門ありがとう。おかげで目が覚めたよ。

私は何となく、本当に何となくだが立ち上がった。
自分の頬を思い切り叩く。
ぱぁんっ!!といかにも痛そうな音がして実際に私は頬がひりひりしたがそんなことはどうでもいい。




「頑張れ皆」

氷里がそれに気付き、不敵な笑みで私にVサインを送った。


……えっ?



白恋の反撃が始まった。

皆は石にボールを回そうとしない。
雪村も一生懸命ゴールに向かう。
とられそうになったが留萌も氷里も木瀧も皆が一生懸命ボールを回す。
だが残り試合時間は少ない。
実況の言う通りこのまま試合が終了するか1点入れて延長戦に持ち込むかだ。

「最後の賭け……」

これは勝ってほしい。
勝ってまた皆で楽しくサッカーをしてほしい。

雪村が、ゴール前に来た。


「頑張れ雪村!!」

吹雪先輩の声が聞こえた。
何だか嬉しかった。

「雪村頑張れ!!」

私も吹雪先輩に負けじと叫んだ。

「豪雪のサイア!!」

雪村が化身を出した。













「勝てなかったね」
「名無し」
微笑んでいる雪村に後ろからタオルを掛けて前が見えないようにしてやる。
結局雷門に勝てなかったのだ。
だが、私達はそれ以上に多くのものを得た気がする。
吹雪先輩も戻ってくるしこれで万々歳だ。

「勝ちたかった?」
「当たり前だ」
「ちょっ痛い痛い雪村」

雪村が無言で私の頬を抓ってくる。
ちょっそれ本気で痛いから!!雪村は楽しそうに抓ってるがそれかなり痛いから!!

「でもこれでよかったんだ」
「……」
「おかげで本当の理由がわかったから」
「雪村……」
「これで」
「えっ」
「全部解決だ」
「ねぇ雪村痛いからさっきからずっと言ってるけど痛いから」

元の雪村に戻ったのはいいけどまた大変な日々が続きそうです。
氷里に「リア充死ね!」と言われたものデコピンだけで済んだのはなんだかんだ言って負けたのが悔しかったからなんだろうな。

何だか今までの自分が馬鹿らしくなってふっと笑うと雪村がいきなり爆笑し始めた。
え、どうしたの雪村。何か変な薬でも飲んだ?
次に氷里もお腹を抱えて笑い始めた。
笑いはどんどん感染していく。

この状況読めてないの私だけ?











(二人共可愛いこっち向いてー)
(吹雪先輩色んな意味でおかえりなさい)
(?うんただいまー)
(先輩カメラは常備だったんですね)
(うんそろそろスマホに変えようと思うんだけど)
(心の底からどうでもいい)









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