雪村と
□フィフスセクター
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雪村が何と新必殺技を作り出した。更に化身を出した。
どんだけ凄いの雪村。というかどんだけ執着するの。
吹雪先輩の代わりにすらならないが私は私なりに雪村の練習に付き合った。
不思議なことに雪村は私を攻撃しない。
それどころか私を壊れ物のように扱う。
荷物を持っていると「貸せ」と言われて持ってくれる。
白咲に怒られたら無言で頭を撫でてくれる。
熊崎に無茶を言われると一緒に手伝ってくれる。
遅くまで一緒に残ってくれる。
帰り道はいつも道路側を歩いてくれる。
本当にどうした雪村。
―だが一つ問題があった。
雪村は私の傍を離れようとしないのだ。
朝玄関で待ち伏せされているのは当たり前。
家に帰ってからもお風呂入って部屋に入ると必ず雪村がベッドで寝ている。
ご丁寧に私服に着替えて。
何でこんな時間に家に上げるの、と母に聞くと「寂しいのよ」と訳のわからないことを言い出した。
後で気づいたが雪村の両親は共働きで夜遅く帰ってくる。
そりゃ寂しいわ、とある日寝ている雪村の頭を撫でたら布団に引き込まれてもうしないと誓った。
そんなわけで東京に来た私達。
初戦も突破して今日は雷門との試合だ。
情報によると吹雪先輩は雷門に居るらしい。
それを聞いた雪村は「裏切り者が……っ」と呟いて拳を握りしめすぎて指の隙間から血が出てきて大変なことになった。
何度かそれで情緒不安定になって泣きつかれたのを思い出す。
吹雪先輩に会ったら一発平手打ちしようと心に決め白恋の列の横に並ぶ。
ちらっと雷門の列を見渡すと本当に吹雪先輩がいた。
この人何がしたいの。
吹雪先輩をじっと睨んでいると顔に冷気が当たって何事かと前を向いたら氷のフィールドが見えた。
あー……これは……
どうやらフィフスセクターは白恋を応援してくれるらしい。
フィールドに入ると雷門の人が早速滑っていた。
マネージャー達も夏制服で寒そうだ。
よかった冬制服で!白恋万歳!
雪村をふと見ると吹雪先輩を睨んでいた。
吹雪先輩を見ると吹雪先輩は私を見つめて……
……え?
私はダッシュでベンチに走った。
吹雪先輩私今から準備しなきゃいけないんです!
そっちはマネ3人もいるからいいけどこっちは私1人なんです!勘弁してください!
というか吹雪先輩空気読んで!!
と思って走ったのも束の間、吹雪先輩に肩を掴まれてしまった。
振り向くと吹雪先輩が悲しそうに歪めた顔があった。
そんな捨てられた犬のような目で見られるとこっちが悪いみたいで嫌だ。
それよりも雷門の人達が何処まで事情を知っているかは知らないが私を見てくる。
何これ。雷門怖い!!
更に吹雪先輩が「名無しちゃん」と何回も呼ぶので無償に腹が立った。
取りあえず宣言通り吹雪先輩に平手打ちしよう。
ぱんっと軽く叩くと吹雪先輩はこの世の終わりのような顔をした。
うわぁこの人打たれ弱い。今度から扱いに気を付けよう。
吹雪先輩は「名無しちゃんっ…ごめんっ…ごめんなさいっ」と謝るので何に対して?と聞きたくなったがそれをするとこの人死んじゃいそうだからやめておく。
「吹雪先輩」
「違うんだ…これはっ」
「信じていいんですよね?」
「……え?」
「吹雪先輩のこと、信じていいんですよね?」
「名無しちゃんっ…!」
「今のは雪村を泣かせた吹雪先輩に腹が立っただけです勘違いしないでくださいね」
「……うん!」
喜 ぶ な 。
叩かれて嬉しそうな顔をする人を初めてみたがこれは気持ち悪い。
何だかぞわっとして素っ気なく立ち去ってしまった。
雪村が変な顔をして私に近寄ってきたので今度こそダッシュでベンチに走る。
白咲とすれ違う時に「余計なことはするなよ」と言われ気まずくなった。
こんにゃろうホーリーロードが終わったら覚えとけよ!
ベンチに近寄ったところで試合のホイッスルが鳴った。
え、もう始まっちゃうの?
先制点は何と白恋。
雪村の新必殺技でゴールを決めた瞬間思わず小さくガッツポーズをして立ちあがってしまった。
うわぁ笑われた恥ずかしい。
更に「ななしさんかわいっ……」と誰かに笑いを堪えながら呟かれたので尚更恥ずかしい。
かわいいとか言われ慣れてないんですっ!!
ただ石だけが面白くなさそうな顔をしているのには少し腹が立った。
どんだけ自己中なのこの子。
あーもう無視無視。傍にいるだけで腹立つこの子。
「それにしても……」
随分とズルイ試合だ。
滑るフィールドに慣れている白恋にとって有利な試合だ。
こんなことをしてフィフスセクターは楽しいのだろうか。
試合を見ると白咲がクリスタルバリアでゴールを守っていた。
白咲の技それだけだもんね。うん。よかったねゴール守れて。
だが白恋中には絶対障壁がある。
熊崎に無茶な特訓を強いられて更にパワーアップした。
1年の真狩が中心となって大分頑張ってたからな。早々破られないと思う。
案の定発動した瞬間雷門からボールは白恋に。
だが雷門は何か策があるらしくボールを奪い取り「行くぞ!」と雷門のキャプテンが皆に号令をかけた。
どうやら必殺タクティクスの名前は「ダブルウィング」というらしい。
二手に分かれてボールをどちらが持っているかを分からなくするものだろう。
真狩は最初こそ戸惑ったものすぐに見極めると絶対障壁で止めてしまった。
さすが真狩!
「というか」
もしかして吹雪先輩が教えた対絶対障壁のタクティクスだろうか。
え、どういうこと。吹雪先輩は……
「雷門に、勝って欲しい?」
本当に吹雪先輩を信じていいんだろうか。
気付いたら雪村が化身の豪雪のサイアを出してアイシクルロードでまたゴールを決めていた。
だが私は何だか喜べなかった。
もし吹雪先輩が雷門に味方しているなら私はどうしたらいいのだろう。
前半が終わるホイッスルが聞こえた。