雪村と

□依存
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「……」


『雪村をよろしくね』


「……あぁもうっ!」

何だか柄にも無くむしゃくしゃする。
最近雪村と全く話してない。

玄関で目があっても無視、部活中も無視、お昼は食べに来なくなったし。
何より白咲の様子がおかしい。元々フィフスセクター寄りなのは知っていたけどまさか、

「まさか白咲がシードだったなんて…」

ところで化身が使えないシードはいいんだろうか?
お前の取り得クリスタルバリアだけじゃんと言ったら怖いので口には出さないが。
そして監督が熊崎とかいうよくわからないおっさんになった。
吹雪先輩帰ってきて。あなたのイケメンオーラ結構重要だった。

あと、えーっと誰だっけ。石?いし?せき?
どっちでもいいけどそいつのせいでむさい感じが一気に増した。
氷里も最近は大人しくなってしまってちょっかいをかけてこなくなった。何だか淋しい。

あぁ

「チームがばらばらになったみたいだ」

もう一度言うが柄に無くむしゃくしゃしている。

馴染んだ環境を急に根こそぎ持っていかれて皆がぎくしゃくしている。
皆朝の挨拶もぎこちない。きっと白咲と石が怖いのだろう。
恐怖で支配された部活は何とも楽しくないものだ。

何だか鼻頭がつんとした。あ、これ泣くのかな。やだな。
でも、

「誰も見てないからいいや…」

練習が終わった雪が降るコート。部員はさっさと帰ってしまった。
少し端っこに移動して積っている雪に倒れこむ。
じんわりと、制服に水と寒さが浸み込んでいくのがわかった。

目が覚めたら全てが元通りになってればいいのに。
皆幸せになれ。

本当に柄にも無くむしゃくしゃしている。


その後まだ残っていた白咲に発見されてお姫様抱っこで救出された。
白咲なんて紳士。





「……」

目の前には湯気が立った温かそうなお茶。
その前には腕組みしている白咲。
これを飲めばいいの。そうなの。
仕方なく湯呑を手に取り、火傷しないようにゆっくり飲む。

「……ななし」
「何」
「フィフスセクターに入る気ないか?」
「ない」
「……」
「……そんな大それたものにはなれない」

お前の技量なら十分だ、と白咲は呟く。こいつは何がしたいのだろう。
元はと言えばフィフスセクターが吹雪先輩と雪村の仲を引き裂いて更には私と雪村の仲も引き裂いた。
そんな敵のような存在に何故味方せねばならないのだと子供のようなことすら考えてしまう私がいる。
何だか自分が買って欲しいおもちゃの前で駄々を捏ねている子供のように思えた。

それに白咲は私をフィフスセクターに入れたいんじゃない。
あいつを、

「雪村をフィフスセクターに入れたいんでしょ」
「……」

白咲は、一瞬驚いたように目を見開き身を乗り出してきた。
私が気付いていないとでも思ったの。
雪村のエターナルブリザード、そして、雪村が秘めている力がこいつらは欲しいんだ。
何だ、まるで雪村が兵器みたいじゃないか。腹立つ。

「帰って」

思わず白咲にあたってしまう。

「だが」
「帰って、家の人が心配する」
「それはお前も同じで」
「いいから」

語気を荒くする。
白咲の顔なんか、見れるはずなかった。
唇をぎゅっと噛みしめて出来るだけ俯くようにした。
白咲はまだ何か言いたそうだったが私の様子にさすがに引き下がった。

白咲の「風邪引くんじゃないぞ」という言葉を最後に、世界が急に静かになった。


視界がどんどん掠れていく。
世界がどんどん真っ白になっていく。

何で、ストーブの音も、ヤカンの音も、先生が帰る足音も、雪の音も、

聞こえないの。

こんな感情的になるなんて、らしくない。
もっと大人にならなきゃ名無し。
こんな、

「こんなことで……何で泣いてるの」

遂に、涙が止まらなくなった。

女の子ってめんどくさい。感情的になるとすぐ涙を流す。私がいい例だ。
雪村にとってはただの毒でしかないのに。

吹雪先輩との楽しそうな笑顔や私といる時の自分勝手だけどそれでも私を思ってくれる雪村のことを思い出してしまう。
すると余計に涙が出てきた。

何も分かってない雪村なんて嫌い。
何も教えてくれない吹雪先輩なんて嫌い。
何もしてやれない私なんて嫌い。

みんなみんな、大嫌いだ。






かしゃん



何かが床に叩きつけられる音がした。
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