雪村と

□風邪
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「で雪村」
「?」
「何で顔近付けてるの」

雰囲気に任せて雪村の顔が近付いてくる。
うーんそれはだめだな。菌が移る。
それだけは避けたい。

「吹雪先輩との特訓は?」
「先輩に名無しが風邪で休みだって話したら」

「行ってあげなよ雪村!男の役目を果たすんだ!」

「て言われて」
「最後のは何なの」

吹雪先輩が意気揚々と雪村に熱く語っている光景が目に浮かんだ。
何処までもかっこいいのに残念な先輩だ。あの人が憧れだったなんて信じられない。
サッカーにおいては憧れが今でもあるが。

「なぁ名無し」
「ん?」
「なんで白咲には本当のこと話したんだ」
「うっ」

どうやら私が白咲にだけ風邪だと告白したのが気に食わなかったらしい。
当然と言えば当然のことだ。自分よりも浅い付き合いをしている奴に本当のことを言われると自分の立場がなくなってしまう。
現に雪村は頬を膨らまして拗ねていた。

「昨日の俺が原因だったからか」
「あ、気付いてた」
「当たり前だ」

気付いていたらしい。
それはそうだろう。昨日までぴんぴんしていた奴が急に風邪を引くなんて雪村が原因としか考えられない。
雪村も何処かで罪悪感を感じたのだろう。だから今日こんなに手際のいい気遣いをしてくれたのだ。

「……悪い」
「別に気にしてない」
「抱きしめていいか」
「どうしてそうなった」

雪村は有無を言わさず私の体を抱きしめる。
風邪のせいなのか誰かの温もりが欲しかったので抵抗はしなかった。
こいつ友達いないから今日一日1人で過ごしたのだろう。
そう考えると雪村がかわいそうになる。
やっぱ距離置いて友達作らせた方がいいのかなぁ……。

「雪村」
「ん」
「友達作った方がいいよ」
「……やだ」
「わがまま」
「わがままでいい」

だめだこいつ。
私を抱きしめる力が更に強くなってやはり痛い。
鎖骨あたりに顔を埋められるので雪村の髪が非常にくすぐったい。
なにこれなんて地獄。
うちの雪村がとにかくわがままでどうしよう。

思えば中学生活毎日机投げられたり携帯折られたり男子生徒が脅されていたり教科書投げられたりとしてるから誰1人雪村と関わろうとしない。
サッカー部員ぐらいしか友達いないんじゃないんじゃないのと思うほど他人と話すところも見たことない。
最初は雪村の顔の良さに憧れていた女生徒もいたようだが今は暴君ぶりにたじたじしている。
中学になったら雪村のファンクラブみたいなのがあって私は呼び出されて叩かれると思っていた。
それでも雪村をかっこいいという女子は減らない。サッカーしている時はかっこいいからな。
だが雪村はそれが嫌らしく周りに女子が1人もいない。
つまり関わっている女子は私一人なのだ。

「愛されてるなぁ」
「当たり前だ」
「雪村は私がいなくなったらどうするの」
「はぁ?」

本気で蔑んだような顔を向けられる。
え、なんかまずかった。
雪村は人一人殺しそうな威圧を放ち、私を睨む。
空気が一瞬凍った。

「俺の前からいなくなるのか」
「ifで聞いたつもりだったんだけど」
「まずそんなことさせない」
「うんそうだよね」

雪村が私を手放してくれるはずがない。
もし手放されたとしてもそれは何か正当な理由があるはず。
どんどん私を抱きしめる力が先程より強くなっていく。
うわぁぁ飲んだもの出てきそう。
喉のあたりに胃液がつっかえていた。これ以上この話をするのはやめよう。

「もしお前が俺の前から消えるのなら」
「ごめんこの話やめよ」
「俺はお前を許さない」
「え、何怖っ」

雪村は両手で私の顔を包んで無理やり顔を合わせられる。
雪村の目はまるで獲物を狩る豹のようにぎらぎらしていた。
やだ何これ私殺される。

「俺から逃げれないようにしてやる」
「ごめん私が悪かった」

そろそろ咳が出そうだったので雪村の手を無理やり引っぺがし乾いた咳をする。
雪村はぎゅっと後ろから抱きしめてきて一言で言うとうっとおしい

まぁでも仕方ないかと思う私もいてもうどうしたらいいかわからなくなった。







(とりあえず風邪治さないと)
(白咲からメールだ)
(何て?)
(……ななしによろしく、だそうだ)
(さすがおかん)









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まさかあいつが敵になる日が来るなんて思ってもみなかった。

そんなパターン。そろそろ原作に沿いたいけどもう一話挟めたらいいなと思う自分がいる。

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