雪村と

□風邪
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ごほごほっ


乾いた咳が暗い部屋に虚しく響く。
私は一体どうしたいのだろうか。
携帯のランプが光っていたのでディスプレイを開いてみると部員達からメールが続々と来ていた。
特に白咲は昨日愚痴を聞いていただけあって休み時間ごとにメールが来る。
大方雪村が嫌になって学校に来なくなったと思っているんだろう。
ごめん私は正当な風邪だ。熱も出てる。
「風邪引いた」と絵文字も使わずに送ると私はうつ伏せで枕に顔を埋める。
あーしんどい……。
声はあんまり出ないわ出ても鼻声だわ咳はでるわ吐くわ体は熱いわでとにかく踏んだり蹴ったりだった。
昨日雪村に水をかけられたからなのだろうか。
本人が罪悪感を感じさせるのは嫌なので雪村には理由も話していない。

押しかけてくる心配はないだろう。
今日は練習もあって吹雪先輩との個人特訓もあるはずだ。
私なんかに構っている暇はない。
咳も出ているので移しては悪い。大会も近いので雪村に負担をかけるわけにはいかない。

薬の効果が効いてきたのか瞼が重くなる。
あ、眠い。ひと眠りしようかな。
携帯が着信音を発しているような気がしたが睡魔に負けて無視してしまった。

それが雪村豹牙からだと気が付いていれば間違いなく電話に出ていただろう。






どれぐらい経っただろうか。
重い体に鞭打って傍に置いている時計を見ると夕方ぐらいの時間だった。
やば、そんなに寝てたのか。
まだ身体にだるさは残るもの、体調は大分回復していた。
よかった。明日は学校に行けそうだ。
早く学校に行かないと雪村が機嫌が悪くなるからな。
とにかく今日はゆっくりするとしよう。
と再び眠りにつこうとした。



がたがたっ

「あ、豹牙君いらっしゃい」
「ちっす」
「名無しなら寝てるわよ」

雪村豹牙が来た。

それはもう玄関から堂々と。

とんとんと誰かが階段を上ってくる音がする。
ちょっちょっ雪村部屋に入ったきたらやばい。ただでさえ菌が蔓延してるのに。

きぃっ

来た。帰れ。帰ってくれ。吹雪先輩と特訓しててくれ。

パニック状態になって心臓の音がうるさい。
汗は出ないもの体が熱くなる。
ドアに背を向けて寝ているので雪村かどうかはわからないが人間がこちらに近付いてくるのがわかる。

「風邪なら言えよ」
「痛い!!」

こいつ病人のお腹に鞄を置くだと……っ!?

涙目になりながら雪村を睨むと少し怒ったような顔をした雪村が仁王立ちしていた。
だがこれ以上暴君ぶりを発揮する気はないらしく大人しく私のベットに腰掛ける。
私はなんだか申し訳なくなって雪村のスペースを確保するため端っこに寄った。

雪村はその様子に眉毛を動かすと私に近付いてきてそっと額に手を当てる。

「熱は下がったのか」
「大分よくなった」
「そうか」
「明日は学校行けると思う」
「じゃあ朝迎えに来る」

雪村はぎゅっと私の手を握る。
え、何これなんで雪村こんなに優しいの。
じっと見つめると「なんだよ」と不思議そうに首をかしげる。
あ、そうだ。雪村に甘えてる場合じゃない。

「吹雪先輩との特訓はっ、」

いきなり大声を出してしまったため、肺からいがいがしたものが伝わり咳が出てしまう。
雪村に移したら悪いと思い布団で口を覆うがそれがいけなかったのか咳が止まる様子はなかった。
雪村は急いで背中をさすってくれてそばにあったペットボトルを取って渡してくれる。
お母さん置いててくれたんだ。

咳が止まった一瞬の隙をついてポカリを無理やり流し込む。
あー吐きそう。でも吐いたら大惨事だから必死に喉に通す。

「ごめん」
「おう」
「お見苦しいところ見せました」
「……」

雪村は黙り込んでしまった。
ところで吹雪先輩との特訓本当にどうしたんだろう。
今の時間帯からして部活はやってきたのだろう。
まさか私のために。と思うと申し訳なさ過ぎて今すぐ帰ってほしいぐらいだ。

「ん」
「え何?」
「今日のプリントとノートコピーしてきたから」
「雪村……っ!」

何この子超いい子。
いつもの雪村とは思えないような行動だった。

こんな雪村が見れるなら風邪も悪いもんじゃないのかもしれない。
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