雪村と

□公園
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幼稚園から雪村とは一緒だった。
といっても集団登校の時に一緒に登校するぐらいで最初は特に仲がいいわけではなかった。

私はどちらかというと本を読んで休憩時間を過ごす方だったので雪村とは全くと言っていい程関わりがなかった。
幼稚園の頃は一緒にサッカーしたが話した記憶があまりない。
だが家が近かった。ただそれだけだった。

「雪村君また上級生に絡まれてるよ」
「え」
「あ、転んじゃった」

隣にいた友達が私を引っ張り廊下に出る。
そこには小さな雪村が大きな上級生に囲まれていて、思い切り張り倒されているところだった。
やだ何喧嘩。最近の子って怖いわね。
なんて井戸端会議のおばさんのように思っただけで特に雪村君かわいそうとかは思わなかった。
あえて言うならばこいつ面倒くさいなと思っただけだったし。

だがあろうことかこいつは私の家の前の公園でも絡まれていたのだ。
もういい加減にしないか雪村豹牙。
あ、殴られた。おぉぉボール蹴られた。あっお腹に食い込んだ。
おつかい帰りの私は衝撃的な光景でしばらく家に入れなかった。
そのまま立ち続けて見ていると雪村の周りから上級生が去っていく。大人げないですね。とでも言っておこうか。

雪村は1人になると悔しそうに泣きだして膝を洗いに行った。そこは偉い。
そんな雪村に何の情が湧いたのか私は気付いたら家に絆創膏を取りに行っていた。
急いで戻ってみると雪村はシーソーに座ってまだ泣いていた。

「はい」
「……」
「ばいきん入るから早く貼った方がいいよ」
「……ななし」

雪村は勢いよく服の袖で涙を拭く。あーあ。
仕方ないので無理やり絆創膏を貼ることにした。
最初は暴れていたもの疲れたのかすぐに大人しくなった。
貼り終えると顔面を蹴られて私はちょっと頭にきた。
だがここで怒れば負けた気がするので大人しく家に帰ることにした。

くいっと私の服の袖を誰かが引っ張る。
今そんなことが出来る人物は雪村しかいない。
私が「何?」と聞くともごもごと言いにくそうに小さく一緒に遊ばないかと聞かれた。
めんどくさかったが家で手伝いさせられるよりはいいだろうと踏んだ私は雪村とは反対側のシーソーに座る。
上がったり下がったりするシーソーは子供心を擽らせた。
雪村と私は最初こそ互いに戸惑っていたが次第に笑顔になった。




「どこでまちがったんだろう」

結果雪村は「名無し名無し」と慕うようになり今では暴力を振るわれている始末だ。
どうしてこうなった。

ふと、手のひらの匂いを嗅いでみると鉄の強烈な臭さがしたので水道場に手を洗いに行く。
雪村は中断されたのが気に食わなかったのか無言で私の後ろをついてきた。
何する気だ。やだ怖い。
かといって洗わないわけにはいかないので水道の蛇口を捻ると雪村のやろうとしていることに気付く。
まずい。早く水止めないと。

と思った直後だった。


ばしゃぁ



こいつ、入口を手で覆って水の軌道変えやがった。
おかげで私の顔面に勢いの増した水がかかり毛先からぽつぽつと雫が落ちる。
あ、寒い。さすがにこれはやりすぎだろ。

なんだか苛められている気分になって急に虚しくなった。
雪村は何でこんなことするんだろうと弱気に思ってしまう自分がいる。
それは多分この寒さで頭がやられたからなのだろう。
涙腺が緩んで思わず涙を流してしまう。

「えっ」
「あ、ごめん」
「あ……」
「……私帰るね」
「え、おいっ」

雪村は私の涙を見てショックを受けたような顔をする。
取り繕おうとする雪村を見て何だが罪悪感を感じてこの場から今すぐ逃げ出したかった。
気がつけば自分の家の玄関に向かって走り出そうとしていた。
だが、雪村はそれをしっかりと止める。
次は何されるんだろうと思って振り向くとぎょっとした。

「……なんで雪村が泣いてるの」
「ごっごめっ俺そんなつもりじゃ」
「わかってるから泣かないで」
「俺っお前に嫌われたくなくて」

じゃあ苛めないでくださいと文句の一つも言いたかったが雪村が嗚咽を漏らしながら私に抱きついてくるのでその言葉を飲み込んだ。

雪村の体温が伝わってくる。
やはり水のかかった頭は冷たかったけれどもそれ以外は雪村の体温で暖かくなる。

「雪村」
「好きだ」
「っ」
「好きだ好きだ好きなんだ大好きだ愛してる愛してるなんて言葉じゃ足りないお前がいればそれでいいお前に嫌われたくない」
「雪村っ」

雪村がおかしい。本格的に私は雪村を傷つけたようだ。
くそう傷つけられたのはこっちなのに。悔しいな。
いつもの雪村じゃないこともあって心配になり、雪村の顔を覗き込むと突然視界が真っ暗になった。
あ、私キスされた。と気づくまでにかなり時間がかかった。

雪村はまるで自分の存在を示すように何度も何度も角度を変えて私の唇を求める。
どうした雪村。

やっと解放された時に気付いたが雪村が震えていた。
あ、怖いんだ。誰かに自分の存在を否定されるのが。
そして震えながら雪村は笑顔でこういうのだった。

「名無しは俺のこと嫌いになったりしないよな」
「…………しないよ」

確信もないのにそう答えるしかできなかった。
雪村をここまで狂わせたのは私かもしれないと思うとなおさらだった。




……もうこのシリアスムード嫌。帰りたい。

とりあえずいつか雪村をボコりたいと思う今日この頃。
今日は白咲にメールで愚痴ることにしよう。






(へくしゅっ!)
(風邪か?)
(お前のせいだよ)
(はぁ?)





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そろそろ本編の方書きたいと思った結果がこれ。シリアスちょっとしたいと思ってたりする。
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