雪村と

□部活
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雪が降り積もるグラウンドに出てみるといつものように皆寒い中練習の準備をしていた。
これからは私がこれをやるのか……。
そう考えると急に帰りたくなってきた。
だが雪村と手を繋いでいるのでそれは出来ない。
雪村の手は温かくてぽかぽかだ。やっぱ運動している奴は体温もあったかいのだろうか。

よく見知っている人物が見えた。
ぴょんっと銀色のはねっ毛で青いジャケットを着ているのが何よりの証拠だ。
つぶらな緑の瞳でじっとこちらを見つめられて思わず胸がきゅっと締め付けられる。
雪村はそんな状態の私を見てか指を鳴らす程強く握りしめられた。

い痛いよぉぉっ雪村!!

私の胸を締め付ける当の本人は私を認識すると勢いよくこちらに手を振ってくる。
犬なら尻尾をちぎれんばかり振っているだろう。彼の場合ゴールデンレトリバーかな。
そして例の如くこちらに軽い足取りで近寄ってくる。

さぁ戦闘準備。


「名無しちゃん今日のパンツの色はへぶぁしっ!!」
「吹雪先輩犯罪だから!!!」

吹雪先輩がデジカメを構えてスライディングしてきた。私は思わず先輩を踏んでしまう。
相変わらずだこの人。
吹雪先輩はスカートの下がジャージだとわかるとそのジャージを脱がそうとする。
やめて。超やめて。

「吹雪先輩もっとやれ」
「お前は黙れ」

雪村も吹雪先輩を応援しているようで現にちらちらと私のスカートに視線が向いている。
所詮は中学生だな。お姉さん嬉しいよ。
別に見られて嬉しいのではなくて雪村も中学生してるなぁという意味です。はい。

「あーななしだー」
「通常運転ありがとう」

同じクラスの氷里は相変わらずの反応を見せてくれてまずまず嬉しい。
というのもこいつは何が楽しいのかいつも雪村と私で色々と遊んでくるので正直あまり関わりたくない。

「入ったの?」
「入ったよ」
「なんで?」
「雪村に入部届無理やり出されて白咲に懇願されたから」

氷里はふーんと楽しそうに相槌を打つ。
何こいつ本当なんなの。

雪村が私の手を掴む力を一層強めた。
あいたたたたっ!!だから雪村それ死んじゃう!私の手がお亡くなりになっちゃう!!

「涙目な名無しちゃんもかわいいよ」
「もうやだこの人」

私の頬を人差し指で突いて少女のようにふふっと笑いをもらす吹雪先輩。
あなたは私の彼女さんですか。おっと違った彼氏さんですか。
雪村あなたも私を睨まないで。睨んでも何も出ない。
あぁ白咲そんな憐れんだ目で見ないで。同情するなら助けてくれ。
氷里お前はどっかいけちくしょう。


マネージャー業を始める前に既に死亡フラグが立ってる。




「はいじゃあみんな集合ー」
「唐突!!」
「今日からマネージャーをしてくれるななし名無しちゃんです」
「無視か」

みんな仲良くしてねーと吹雪先輩はまるで幼稚園の先生のようにみんなに呼び掛ける。
どうしよう。私この部でやっていける気がしない。
……知り合いもあんまりいないし。このメンツだと1年生が多いか?

ぼーっとしていると横から「挨拶挨拶」と吹雪先輩が優しくフォローしてくれる。
は、そういえば自分で挨拶するのか。

えーっとこういう時は何て言えばいいんだろう。

「えー…ななし名無しです。雪村豹牙とかいう幼馴染に連れてこられましたが
仕事はきっちりこなすんで仲良くしてください?」

やば。疑問形になってしまった。
隣の雪村も何が気に入らなかったのか舌打ちをする。
お前人間舌打ちされるのが意外と怖いってことを知らないのか。


しーん



はいシラけたー。うん、シラけるよね。これは。
何真面目に自己紹介してんだって話ですよね。
1年生は相変わらず目をぱちくりさせてるし2年生は笑いを堪えてるし
白咲笑わないで。

「えーっと?」

とりあえず間を取り持ってみる。あぁこれ一線置かれるパターンかな。やだな。

「救世主……」
「え?何?」

マフラーを巻いた緑色の髪の子がぼそっと何かを呟いたのが聞こえた。
何て言ったんだ。

よくわからないまま突っ立っていると部員達が一斉に騒ぎ始めた。
「俺達の救世主が来た!」とか「これで寒い思いしなくて済む!」とか「女の子万歳!」とか
色々言ってるが全部聞かなかったことにする。

はぁ

つまりあれですか。






「雪村一体何したの」
「何もしてねぇよ」
「……」
「…………」
「え、なんでボール持ってきたの」

無言で睨みあっていると雪村がカゴから一つのボールを取り出した。
そのボールで私にシュートしようと?え、それやだ。
雪村本気でやりそうだからやだ。

「雪村落ち着こうか」
「落ち着いてられるか」


本気で私目がけてボールがとんできた。




どうしよう。
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