雪村と

□入部届
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「お前の席ねぇから」





朝、毎日のように降り積もる雪の中を必死に歩き学校に着いた。
暖かい教室に早く入りたくてマフラーをとりながら早足で階段を駆け上がる。
するとどうだろう。

幼馴染が自分の席に足を組んで座っているのだ。
彼の周りには誰も生徒がいない。
あぁ、こいつ友達いないからなぁと考えたと同時に返す言葉を脳内で組み立てる。
とりあえずあえて言いたい。


「お前が座ってるだけだろ」


なんて言ったらやはり脳震盪が起こりそうな勢いで頭を叩かれた。
どういうこと雪村。

「朝からなんですか雪村君」
「……教えてほしいか」
「なんでそんなに偉そうなの」

なんてツッコむと今度は頬をつねられた。
少し痛い。だが当の本人は楽しそうに指に力を込めている。
だからやめてって。
なんとなくむかついたので淡々と罵詈雑言を幼馴染に浴びせることにした。

「雪村性格悪い嫌い近寄らないで」
「…………」

雪村は果たして何をするだろうか。と半分ドキドキ半分ハラハラしていると彼は予想外の行動に出た。


がたんっ、



「何してるの雪村」

彼が、急に私の机を持ち始めたのだ。
これは投げられるフラグか。よし皆避難しろと思っていたらクラスメイトはすでに黒板周辺に固まっていて
誰1人として私の机が位置するところにいなかった。
相変わらず慣れというのは怖いものだ。

雪村が机を振りかぶった。私は思わず身構える。

投げた。

が方向は私がいる方ではなく反対だった。

つまり雪村は外に私の机を投げ出したのだ。

「ちょっ雪村ぁぁぁっ人、外には人がいます!」
「問題ない」
「問題あるに決まってる!」


なにこれなんてイジメ。
単独で単独をいじめるやり方なんて知らない。
私は溜息をついて持っていたマフラーを再び首に巻き、教室を出る。
雪村はというと、もちろん私の後ろに黙ってついてきた。
よほど嫌いと言われてショックを受けているのか半径1m以内から出ようとしない。

何この子面倒くさい。

吹雪先輩が救ってくれることを夢見て外に出る。
やはり、吹雪先輩はいない。
代わりに白咲がいるがここでは何の得にもならないので軽く挨拶して机に触れる。

「つめたっ」
「当たり前だ」
「なんで投げた当の本人が偉そうなの」

外に放り出された時に白咲が上手いこと生徒を誘導してくれたようで誰にも机に直撃したものはいなかった。
白咲様々だ。白咲マジで感謝。

「運ぶの手伝った方がいいか?」
「いいよー雪村が怒るから」
「……大変だな」
「同情するなら吹雪先輩呼んできて」

無理だ、と即答されてわかってはいたが思わず肩を落としてしまう。
雪村は先程から私の後ろで白咲に負のオーラを剥きだしだ。


「そういうえば吹雪先輩で思い出したけど」
「?」
「雪村何しに来たんだっけ?」
「……お前まだ言ってなかったのか」

白咲が盛大な溜息をつきながら雪村を睨む。
相変わらずのお母さんは何処か安心感を与えてくれる。

とか、言ってる場合じゃない。

「え、何重要なこと?」
「かなりな」
「かなり」

雪村を横目で見つめる。
あーあ、唇を噛みしめながら拳を強く握りしめている。
まずい。これちょっと怒っている。
雪村の八重歯がぶちぶちと音を立てて唇を赤く変化させてゆく。
せっかくのイケメンが台無しだ。

「血が出るから唇噛んじゃいけません」
「む」

雪村の口元が大惨事なるのは嫌なので持っていたハンカチを雪村の口に押し付ける。
ハンカチ押し付けられた雪村が幼く見えて可愛い。おっとそんなデレている場合じゃない。

「でなんだっけ?」
「入部」
「は?」
「入部届出してきたから」






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