京介が

□中学生
2ページ/2ページ


「京介!!」


大声で聞こえるように呼ぶが京介は反応しない。
何だ何だ、何落ち込んでるの京介。
京介に近付いていくと先程よりも更に悲しそうな顔をして俯いている。
足元にあるサッカーボールが微かに汚れている。
え?もしかして入学早々フィフスセクターの仕事があったの?人使い荒いな。
私は京介に近付くのをやめて一定の距離で京介を観察する。
京介は一歩も動かない。ただ足元にあるサッカーボールを見つめるだけだ。
仕事中に何かあったのだろうか。
私はどうしていいか分からずただ京介を見つめるだけ。
あぁもうどうしたらいいの!!何で我が家はこんなに深刻なの!
背後から聞こえる入学を祝う生徒の声が憎たらしい。
……え?

背後からの声に気付いた私は勢いよく振り向く。
其処には正門近くに立って新入生を笑顔で迎えている上級生の姿が目に付いた。
もう続々と新入生は集まってきている。
京介も式に遅れることはしたくないだろう、ただでさえ格好だけでも目立つのだ。

「どうしよう…」

京介をが何事も無く入学式に出る方法はただ一つ。
私が京介を励まして笑顔で送り出すことだ。それしかない。
だが、私は今京介が何故悲しんでいるかが分からない。
下手に励ましても逆に京介を複雑にするだろう。
別の方法で励ませればいいんだけど。

私は腕を組み唸りながらあらゆる方向を向いて知恵を絞ろうとする。
だがいくら考えても漠然としたものしか浮かばなかった。
うわぁぁっ計算式は出てくるのに肝心の解決策が出てこないぃぃっ!!このガリ勉が!!
やけくそになって走り去ろうとしたが先程目に付いた上級生の手にある物に注目する。
私はその時しめた、と心の中で指を鳴らした。





「京介!!」
「……あっ姉さん」
京介は私の存在を確認するなり無理に笑顔を作る。
その儚い笑顔に私は心が打ち砕かれそうになったが此処で負けては最悪の入学式にしてしまうと責任感を感じ京介を見つめる。
京介は足を使って背後にサッカーボールを隠していた。
え、何その姿勢面白い。

「来ちゃった」
「…入学式、だったな」
「式始まるよ?」
「あぁ、すぐ行く」

京介は私の手を掴んで茂みから出ようとする。
掴まれた左手が京介の気持ちを感じ取る。あ、京介震えてる。
ひんやりと冷たい京介の手をぎゅっと握る。
私が京介を守らなきゃ、きっと京介は潰れてしまう。そんな訳の分からない使命感が私の感情を支配する。
気付いたら私は京介を引き留めていた。



「姉さん?」
「京介は、今日は主役だよ」
「何言って」
「私が魔法をかけてあげる」

私はポケットから例のものを京介の前に出す。
京介は驚いたように目を見開き、そして嬉しそうに微笑んだ。
馬鹿だなぁ京介、こんなのだけで自然に笑顔がこぼれるなんて。
私もつられて微笑んで京介の胸元に付ける。

「やっぱ京介は赤が似合うね」
「恥ずかしいからやめてくれ」
「嬉しいくせに」
「当たり前だ」

胸元の花が傾いていたので直してやると京介に頭をポンポンと叩かれた。
上を向くと京介が締まりのない顔をしている。
やった、成功だ。京介が元気になった。
私は嬉しくなって両手を万歳すると京介は何を思ったのか私を持ち上げた。
え、嘘っ、その細身の何処にそんな力があるの。

「京介っ下ろして」
「もう少し」
「京っ」
「もう少しこのまま」

京介は私を抱っこする形になると落ち着いたのか目を閉じて私のお腹あたりに顔を埋めた。
勿論私がそんなに弱っている京介を無理に止めることは出来ずされるがままに落ち着いた。
今日は京介が主役なのだから、




私はあなたの魔法使い、







(……式に遅れるよ)
(ん、わかった)
(あら、案外すんなり)
(目立ちたくないしな)
(その格好でよく言うよ、痛い痛いっ米神痛いっ)
(おとなしくしてろよ)




NEXT
一度データ消えて残念なことに。やっぱシリアスになってしまう。京介デレさせたい。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ