京介が

□中学生
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「怖いほど似合うね京介!!」
「……」
「お願いだから無視しないで」
「……」
「京介?剣城京介くーん?」
「うるさい」
「痛い痛いっ頭掴まないでっ」

朝寝癖を直しながらリビングに入ると京介があの痛い学ランを着て出掛ける準備をしていた。近付いていくと米神に青筋をたてた京介に頭を鷲掴みされる。
あ、そうだね今日入学式だったね。
私が通う公立中学も同じく入学式がある。特に役回りがあるわけではなかったので京介の入学式を見に行く予定だ。
昨日一時間攻防戦を繰り広げて式だけ出席するという条件で私が勝った。
何でだろ、やっぱフィフスセクター関連で何かあるのだろうか。
はっまさか……

「入学早々喧嘩?」
「何処をどう解釈したらそうなるんだ」
「格好を不良と解釈したらそうなる」
「……」
「あいたたっ髪の毛引っ張らないで」

京介は怒ったのか私の髪の毛を強く引っ張る。
本当に痛いっ姉ちゃんが禿げちゃう!!
京介は禿げた姉ちゃんでもいいの!!
涙目で必死にそう訴えると京介は私が伝えたいことがわかったらしく納得したように櫛を出す。
何処から出てきたのその櫛。

「俺は姉さんの髪が伸びる手助けをしただけだ」
「知ってる?それって助長って言うんだよ」
「あーほら、髪の毛結んでやるから大人しくしてろ」
「ねぇ聞いて」

京介は私の言葉を無視して行動を制すると器用に私の髪をまとめていく。
京介の指が気持ちよくて私はうとうとする。やばい寝そう。
もう一度寝てしまえばお昼まで起きない気がする。
それでは京介の入学式に行けない。
必死に眠気と戦いながら舟を漕いでいたら京介に頭を叩かれた。

「寝るな、入学式に来るんだろ?」
「すみません」
「全く姉さんは相変わらずだな」
「それどういう意味」
「ほら出来たぞ」

私は京介の言葉にむっとし後ろを勢いよく振り返るとふわっとまとめられた髪が顔にかかった。
髪型が気になった私は洗面所に走って現状を確認する。
鏡に映っている自分の姿を確認すると思わず感嘆の声を上げてしまう。

「ふわぁぁっ…さすが京介!凄い綺麗!」
「スプレーは?」
「軽く!」

私が元気良く答えると京介も少し笑って柄にもなく「かしこまりましたお嬢様」と執事の物真似をして私の髪にスプレーをかける。
私の弟テライケメン。かっこいい。
綺麗にまとまった毛先を触って「うむ苦しゅうない」と京介の前でくるくる回る。
京介は嬉しそうに私の頭を軽く叩くと一瞬、切なそうな顔をした。

「京介……?」
「ありがとう姉さん」


京介は急に真面目な顔をして玄関へと向かう。
私は何が起こったのか分からなくて京介に叩かれた場所をそっと触れる。
苦しそうな顔の京介だ。私があんまり好きじゃない京介の顔だ。
何あの戦争にでも行くような顔。
……あぁそうか、
私は全てを悟ったように俯きながら拳を握る。

「京介は戦ってるんだ」



じゃあ、私は?




「京介と私は共犯者」

自分の声があまりにも無機質だったので私はどきっとする。
きっと私は今凄く無表情だ。
私だってただじっとしているわけではない。
サッカーで戦えなくても私は私なりの戦いをしているつもりだ。
それの証拠に食卓に置かれた私のために集められたチラシを無言でゴミ箱へ持っていく。

これは私には必要ない。









京介が家から出ていってからしばらくして私は雷門中学へと向かう。
実は小さい頃は雷門中学に通いたかった。だが私立の為学費などの都合で通うことを諦めた。
よく京介と兄さんと手を繋いでこの道を走ってたっけ……。
私達三人兄弟は雷門通う気満々で母さんに話すと夜両親が会議を開いていた所を目撃してしまった。
どうやらうちには三人も私立へ行かせる余裕がなかったらしい。
京介はフィフスセクターからの生徒として学費は免除、くそう羨ましいな。
私もフィフスセクターに入っておけばよかったか。
そうすれば京介の代わりになれていたかもしれない。
ふと、先程の京介の悲しそうな顔を思い出す。
それに比例して自然と歩幅が大きくなり足が地面につく間隔が狭まっていく。


早く京介に会わなくちゃ。



何かが必死に私を京介に会わせようとしている。
京介に会って、それから、




雷門中学に入って茂みを見ると京介が突っ立っていた。
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