京介が

□共犯者
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いつの間にか寝てたようだ。




「……?」

重い瞼をゆっくりと開けるとぐーすかと気持ちよさそうに寝ている京介の寝顔が最初に映った。
私は全く状況が理解出来なかったが夜中だというのに部屋が明るいことと点灯しているゲームの電源ランプを見て途中で寝てしまったんだと理解する。

京介と最近新しく買ったゲームでしばらくはしゃいでいた。
何だか急に眠気が襲い、京介のベットに潜り込みながらゲームをした。
すると京介は通信がしたかったのか横に潜り込んできた。

いつの間にか私達は寝てしまっていたようだ。


で、

現在に至る。



目の前に居る京介は後ろで束ねている髪が邪魔で仰向けになれないようで私の方を向いて眠っていた。
そんな京介がかわいそうになって起こさないように束ねているゴムを解いてやる。
一瞬嫌そうに顔を顰めたので起きるかと思って身構えていても何もこなかったので拍子抜けした。

「京介……」

明日からこいつも中学生かと思うと何だか寂しい。
また私と同じ位置に立つんだと思うと少し腹が立った。
京介はきっとサッカー部に入るだろう。そして私は受験生になる。
いつものすれ違いがまた、始まる。

「やだなぁ」

寂しくなって京介とおでこをくっつけ合いすると京介は擽ったそうにまた顔を顰めた。
そんなところはまだまだ末っ子だと感じずにはいられない。


小学校に入りたての頃は人見知りが激しくて私のランドセルに引っ付いて離れなかった。
兄さんが一生懸命同じ年頃の子と京介を仲良くさせようと頑張ってたっけ。
休み時間はよく皆でサッカーしたなぁ。
私と兄さんが強すぎて京介はよく拗ねた。
そりゃ京介が小1の頃は私は小3で兄さんは小5だ。体格が違いすぎる。
二人は豪炎寺さんが好きで必殺技のマネをしていることが多かった。


「あ……」



―嫌なことを思い出してしまった。

私は急に頭を鈍器で強く殴られたような感覚に襲われた。
ぐらぐらと視界がはっきりしなくて吐きそうだ。
我慢できなくなって京介を力任せに抱き締める。
きっと今の私は震えてるだろう。
呼吸も心なしか荒い。

私はひたすらに自分が正常に戻るのと京介が起きないことを願った。


兄さんが倒れて、京介が泣き叫んで、私がただ茫然と見てる。

あの光景が焼きついて頭から削除されない。



「あーくそっ」

そもそもあれは誰が悪いのだろう。
京介は自分が悪いと思ってる。兄さんは仕方のないことだと思ってる。
母さんも父さんも誰も悪くないと思ってることだろう。
うーん良い家族。実に模範的。

その中で私の考えは異色と言っていいかもしれない。






京介と兄さんは相変わらず豪炎寺さんの必殺技を真似していた。
私はあまり火属性の技が好きではがヒロトさんの流星ブレード出来るかなとぐるぐる考えてもう一つのボールを蹴っていた。

ぽすっと背後から音がして振り向いてみると木にボールが引っ掛かっていた。
あーこれは取れないなと思っていると何故か京介が木に登り出した。
兄さんはそれを必死に止める。
私も遠くからだが京介を呼び止める。

「京介危ないぞっ」
「京介降りといでボールは此処にもあるから」
「だってボール無くしたら母さんに怒られるもん」
「だからって」
「はぁ……」

兄さんはあたふたと木の幹辺りでうろうろする。
私はやはり遠目から二人を見守る。
京介がボールに一生懸命手を伸ばして取った。
笑顔でこちらに顔を向けて私も笑顔で「早く降りといで」と言おうとした時だった。




ばきっ





視界が急にモノクロになった。

京介を支えていた枝が折れたのだ。
私はあまりに急のことで動けなかった。


次に意識がはっきりした時には、




倒れた優一兄さんと泣きじゃくる京介とただ茫然と立ち尽くす私がいた。

私はとにかく近くに誰かいないか見回した。
丁度そこに通りかかった大人がいたのでその人に大まかな事情を説明し救急車を呼んでもらう。
随分冷静な対応が出来たものだ。今でも私はあの時の自分の心境が分からない。
実の兄が怪我をしたというのにまるで他人事かのように見えたのは何故なのだろう。

私はそんな目で京介を見ていた。
まるで物語の一ページを見ているかのように。

「京介、今救急車呼んだから」
「ねっ姉ちゃんっ……っ俺っ」
京介はしゃっくりをしながらえんえんと泣いている。
私はそんな京介に近付き頭を撫でる。
「京介は怪我ない?」
「俺っ……っ兄ちゃんをっ」
「死んでないよ兄さんは」
「でもっ」

京介は相変わらず私の慰めも聞かず大声をあげて泣いている。
私はただただ困った。


大好きな京介を庇って大好きな兄さんが怪我をしたのだ。


一体誰を責めればいい。


心がもやもやとしたものでいっぱいになりどうにかしてそれを吐き出したしたかった。
だが誰にこの訳の分からない感情をぶつければいい?







京介?





目の前で泣きじゃくる京介が急に親の敵のような存在に思えて怒鳴りたくなった。
だがそんなことをしたら京介が壊れてしまう。
一瞬でも京介が全て悪いと思ってしまった自分に今度は腹が立った。



そうか





私はその時実に不気味な笑顔だったと思う。
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