ふたり

□ふたり
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私が笑う。
あなたがつられて笑う。
とても温かい日々。
ずっとこんな日が続けば、いいのにね。

それは彼が寝静まった時間。
私はこの一緒に暮らした家を、出る。
隣で寝息を立てる彼。
私の頭の上に、たくましい腕がある。
左腕を私のほうへ伸ばしてくれるのが習慣になってる。
私はその腕を枕にして眠るのが大好き。
「たまに痺れて感覚がなくなる時がある」なんて言いながらも
翌日には腕をこちらに伸ばしてくる彼がとても愛しい。

でも今日は、腕より下で眠っていた。
あなたが起きてしまわないように。

夜が明ける少し前。
少しずつ動いて やっと起き上がる。
まだ、寝息を立てて幸せそうに笑っている。
もう少しだけ、もう少しだけと彼の寝顔を心に焼き付けて。

そっと扉に手をかけて部屋から、出る。
「・・・どこいくの?」
心臓が飛び出るかと思った。とっさに出た一言
「トイレに行ってくるね。すぐに戻るから」
我ながらなんて言い訳だろう。
でも、「そか・・・・」とそのまま寝息が聞こえてきた。
後ろ手でドアを閉める。

・・・・・っびっくりしたぁぁぁぁ。
まだ心臓が踊っているよ。
まさか寝ている人から声をかけられるなんて、思いもしなかったから。

落ち着いて、落ち着いて。
部屋を出て階段を降りる。
こっそり隠していた荷物を抱えて玄関へ向かう。
途中で洗面所を通る。
明りをつけていないけど見える、彼と私の並んだ歯ブラシ。
一つのカップに二つの歯ブラシがクロスしてそこにはあった。
もう、こんな風に並んで居られないのかと 胸が痛い。

音を立てないように玄関から、出る。


最後に家を見上げた。
もうここには戻って来れない、それだけのことなのに。

そのまま少し歩いたところに用意していた白いワゴン車へ乗り込む。
鍵を回す。けだるそうにエンジンがかかった。


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