新 連載

□万事屋の診断
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「というようなことがあって以来、やたら攘夷攘夷とうるさくて…」
「銀時、お前が剣を取ったならば、ターミナル爆破を再考しようと思う」
「ほら、またこんなことを言うでしょう。たまに熱にうなされるようにこういう内容を喋るんです。だいたい爆破するにも使うのは爆弾であって、銀さんの剣は関係ないじゃないですか」
「姉御、つっこみ所が…」

違うアル、と神楽ちゃんに愕然とされた顔で言われるが、いまいち意味がわからない。
すると銀さんが重たげに口を開いた。

「紫さんよぉ」
「なんでしょう」
「貴様ら、俺を無視るな」
「紫さんがわざわざヅラを心配して連れてきたのに悪いけどよ、放っておけばいいんじゃね?」
「そんな…」

桂さんの古い友人だから、何かしら助言をくれると思っていたのに、銀さんはあまりにも冷たかった。

「つーか、むしろ良い傾向なんじゃねぇの?コイツ、攘夷派のアイデンティティをすっかり忘れさってたじゃん、最近」
「ふざけるな。俺は常に攘夷がJ…」
「でも、ターミナル爆破とか口走るんですよ。戯れにも、まずくないですか。頭がどっかにいっちゃったのかと」
「紫さん…」

銀さんが深い溜め息をついた。

「忘れちゃったかもしれないけどね、本来ヅラは過激派だったの。爆弾ばんばん投げてたの」
「っ……」

銀さんの一言が電撃のように私の身体を貫いた。そういえば何か思い出すものがある気がする。まだ桂さんと会う前の、彼のニュースとか。凄く違和感を覚えるが、物騒な内容だった気も微かにする。

「だめネ、銀ちゃん。知ってるアルか?姉御視点で物語が進んでるから分かりづらいだけで、姉御はヅラのボケにも、ずっとニコニコしてるアル。電波でウザいヅラが姉御にとっての普通ネ」
「こら、」

こら、リーダー
こら、神楽ちゃん
図らずも、桂さんと声が重なる。

「万事屋的診断を下すなら、コイツの頭はもはや手の施しようがねぇ。だが、攘夷云々言うようになったというのは、初心に帰り、無に帰り、あわよくば攘夷に失敗したついでにあの世に帰ってくんねぇかなという意味で、非常に好ましい傾向である。投薬不要。以上」
「姉御こそ手遅れになる前に手を打つアルヨ。常日頃のヅラを異常と認識できなくなったら姉御の何かがオワってしまうネ」

私はただ唖然とするしかなかった。よもや私の方が心配されることになろうとは。
万事屋の診療は、以後だらだらと時を潰すだけになり、私たちは店を後にした。
道々、銀さんに言われたことを振り返る。
桂さんはもともと過激派だった……
過激派…?
過激派ってなんだ。
過激派は、武力に訴え、攘夷を遂行しようという攘夷組織の一派。
桂さんは、無駄な血をそこらかしこに流させる過激派の攘夷に異論を唱え、穏健派となった。
そして穏健派となってからは、多くの志を同じくする仲間と、昨今のドラマの展望やペットの愛らしさ、ラップの韻の踏み方等について日夜議論を……。
穏健派って一体なんだ。
というか、そもそも攘夷って何?

おもむろに隣を歩く桂さんの顔を見上げる。
彼は、確かに分かっているのだろうか。
いや、当前、彼には見えているはずだ。
真っ直ぐ行く先を見つめるその瞳が、まさか何も捕らえていないはずがない。と、思いたい。
すると、桂さんがふっと息をついた。

「やはり、銀時のような無気力の権化を誘うこと自体が間違っていたようだな」
「え、」

つい数分前までは、銀時の力が必要なのだ…!と熱弁を奮っていた気がするが。

「銀時なんかより、熱意に満ち溢れた新八君の方が余程攘夷の徒に相応しいかもしれん」
「新八君?あ……!」

桂さんの眼差しの先には、ちょっとした人だかりと、その中央には新八君がいた。
あの眼鏡、間違いない。
新八君は群集の真ん中で拳を振り上げ、熱く何かを叫んでいた。
確かに、攘夷の熱さと似たものが感じられなくもない。

「眼鏡チャンプ、新八、万歳!」
「眼鏡の王者、新八、万歳!」「キング オブ 眼鏡、新八、万歳!」

なにがあったのか知らないが、熱気とともにそこはかとない異様な空気が漂ってきた。

「帰ろうよ、桂さん」
「そうだな」

世にも珍しい新八コールと歓声は、しばらく鳴り止まなかった。
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