新 連載
□アクアリウム会議
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と、くだらない想像をして時間を潰していたら、不意に会議室の扉が開いた。
八又に別れたスラックスに二本のひょろ長い腕、イカだ。正確にはイカの天人だ。
部屋に乗り込んできたイカ天人は、会議に出席していたイカの所へ駆けよると、何やら耳打ちした。因みに、イカの耳とは俗に胴体の先についている菱形状のものを指す。
ぼうっと彼らのやりとりを見ていた私達だったが、イカ天人が突然イカりだしたので、ハッと身構えた。
「なんだと〜?!イカん、それはイカん。イカんぞォォオ!」
バン、とイカ天人が机を叩く。続けざまに机を叩きたかったようだが、怒りのあまり吸盤が机に張り付いてしまったようで、剥がすのに手間取っている。
「どうしました?なにか、ありましたか?」
私が尋ねると、イカ天人は振り返り、キッと睨んできた。どうしよう、イカに睨まれてしまった。
だが、よく見ると、イカのつぶらな瞳は私ではなく松平公を写しているようだ。
「長官、できれば二人で話がしたい。皆もすまないが、今日の会議はこれでお開きにしてくれたまえ」
「うぇっ?」
破壊神、松平公が驚いて妙な声を出す。すまいるの妄想が瓦解したのだろう。
「それでは、私はこれで…」
「ちょ、紫ちゃん待って」
私が退席しようとすると、松平公が引き止めたので、イカ天人の様子を窺う。イカと二人きりにされる不安は手に取るように分かるので、助け舟を出して上げたいけれど、天人御自身の指名なのだ、そう簡単にはいかない。
「君も、はずしてくれたまえ」
イカ天人直々のご指示がために、私は席を立つ。
「紫ちゃんん!おじさんを独りにしないでくれ、おじさんは寂しいとしんじゃうんだァァア!」
時計を確認すると、会議が始まってから丁度一時間が経っていた。思いのほか早く終わったなと、ほっと息をついて、悲痛な叫びが響く会議室を後にした。
後に、この松平‐イカ会談に大きく振り回されるはめになろうとは、この時はまだ思いもよらない。