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□winters novel
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合法ドラッグ winters novel

まだ薄暗い12月のある朝。早朝に目が覚めたらしいこの店に住み込む17歳の青年は、ばたばたと廊下を走り、部屋のドアを思いっきり開けた。
「陸王! 雪だ、雪!」
同じこのみどり薬局の住み込みバイトである火群陸王の寝室に無断で押し入り、迷惑極まりないこの青年、風疾はカーテンを思いっきり開けた。
「お前……何時だと思ってんだ……」
とたんに寝起きの不機嫌さそのものの声がベッドの布団の中から呻く。その声の主であり、いましがた風疾に起こされた陸王は、窓から差し込む神聖な朝日に眩しそうに目を細めた。
「お前が寝すぎなんだよ! ほら!」
布団の中に潜り込もうとする陸王の蒲団を奪い取り、床に落とす。
「ふざけんなよ……」
不機嫌な声と共に、陸王はやっと、ゆっくり起き上った。
「早く外いこうぜ!」
「まだ5時じゃねぇか……」
目覚まし時計をOFFにしながら、陸王がつぶやいた。そんな言葉など耳に入らないかのように、風疾は既にコートを着て、寒い早朝の風の中に飛び込む気満々だ。
「ほら。」
こいつは自分だけじゃなく俺まで巻き込むのか、そんなことを思いながら、陸王は仕方なしに風疾の差し出した自分のコートを寝巻の上に羽織り、そばにあったマフラーを掴んで外へ出た。

「はぁ……! わ! 陸王、みろ! 息が白い!!」
「……。」
まるで小さな子供のようにはしゃぐ風疾に、寒そうに身を縮める陸王。同じ年のはずなのに、どうしてこうも違うのだろうか。
「さすがに寒いなー。」
「……早く部屋に戻……っつ……」
突然飛んできた雪玉と笑い声に顔をしかめる。
手袋もしない素手でしっかりと体温を込めて作られた雪玉は、製作者が思っている以上に固く加工されているものだ。
「あはは。やっぱそんなに積もってないなー。3センチくらい……はっくしゅっ!」
やはり寒いのか、風疾は一つくしゃみをすると鼻をすすった。
「……だから寒いって言ったじゃねーか。」
そういいながら、陸王は自分のマフラーを風疾の首筋にかけた。
「早く入るぞ。」
「ん。」
自分から誘っておいてマフラーを借りるというのもどうかと思ったが、コートの生地すら超えて肌に染み込む寒さに敵うはずもなく、風疾は大人しくマフラーを首に巻いた。
「お前のにおいがする。」
何気なく感じたことを口にすると、陸王は目を丸くして風疾を振り返った。
かすかに鼻腔を擽る匂いは、たまに早く起きた時に陸王を起こすために部屋に入るとふわりと香る匂いと同じで、不思議と安心感に包まれる気がする。
鼻までそれに埋めると、陸王は呻くように眉根を寄せた。
「お前……自分が何してるかわかってるか?」
「へ?」
唐突な問いかけに間抜けな声を出すと、陸王はため息をついて「自分の責任だからな。」と言うと自分のマフラーに埋まる風疾の顎を持ち上げた。
「ん……っ!」
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