―本棚―

□お返しは苺の味で
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ツバサ・クロニクル 昴流×神威
〜お返しは苺の味で〜

「眠い……」
ある廃墟の一角。一人の吸血鬼はそう呟くとばたんと固い地面に横になった。コンクリートの冷たい感覚が身に染みる。
「昴流、遅いな……」
数時間前にいなくなった自分の双子の兄の名を呟く。他人と一緒にいるのは苦手と言うより嫌だけど、昴流だけは別だ。生まれたときから一緒のせいか、それとも最も愛しいヒトが故か……。
廃墟を吹き抜ける風が冬の終わりを告げ始める。この冷たい空気は心が冷え切った神威の身体までを冷えさせた。
兄が何処かへ行って、数時間。今までそんな長い時間、何も言わずに神威から離れたことがないのに。一体、何処へ行ったのだろうか。
「昴流……」
再び、恋しくて呟く。
「どうしたの?」
「……昴流!」
寝転がって瞑っていた目を開けると、先ほど呟いた名前のそのヒトがいた。勢いで起き上がると、冷たくなった頬を触られた。
「ごめんね、一人にして。寒かったよね。」
「……うん……」
心地よい温かな手に、眠気を誘われた。その優しい感覚を味わっていると、「神威」と名前を呼ばれた。
「なに……? ん……っ」
目を開けた瞬間に、昴流の顔が近づき、口を昴流の唇で塞がれた。
『甘い……』
昴流は口に何かを含んでいるらしい。忍び込んできた舌は、甘い味がした。それは口腔を探られるうちに迷い込んできた。
『飴……?』
それは苺味の飴で、普段そんなモノを口にしない吸血鬼の二人にとっては何か不思議な甘さだった。
「ン……んぅ……」
キスと、飴のせいで口の端から唾液が溢れる。離れたときに小さくなった飴は神威の口に納まった。
「ホワイトデー。」
「……?」
昴流の言った言葉の意味が分からず、聞き返すといつもの優しい笑顔を向けられた。
「前に神威、僕にチョコレートをくれたでしょう。だから、そのお返し。」
「……ありがとう……」
素直にお礼の言葉を述べる。恥ずかしくて俯いてしまったけど、きっと昴流はそれを視て笑っているんだろう。いつものように。
「もう、ないのか?」
「まだ欲しい?」
「……うん……」
そう返事をすると、かさりと何かを開ける音がして、再び飴を含んだ口が神威の唇を奪う。
何処までも甘く、優しい唇……2度目は飴が無くなるまで。

〜END〜
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