―本棚―

□神威疾走
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happy・バレンタイン

「神威ー!」
ここはとある国の、町外れ。廃墟のようなこの建物に、双子の吸血鬼は降り立った。
しかし、双子の片割れ、神威は何処かへ行ってしまったらしく、ここにはいない。取り残された兄、昴流は神威を探して廃墟中を探していた。
「何処行ったんだろう……」
心配そうな表情になる昴流。何しろ、生まれてから今までずっと一緒だったのだ。それに神威は滅多なことでは昴流から離れない。吸血鬼として生まれてこの方、神威の方から昴流を置いて何処かへ行った事なんて、数えるほどもない。
「何処行ったんだろう……」
同じセリフをくり返し、不安に包まれながらも神威が帰ってくることを願って活動時間外の昼間も寝ずに瓦礫に座っていた。


ふと気がつくと、もう輝く太陽は消え、反射して輝くだけの月が昇っていた。
「あれ……? 寝てたんだ……」
いつの間にか寝ていたらしく、仰向けになった自分の身体を起こす。
と、何かが手にぶつかった。瓦礫ではない、綺麗に整った四角形の箱。
「起きたか。」
「神威。」
箱を手に取り、寝そべったままの体勢でそれを眺めていると、双子の片割れが顔を覗いてきた。
「これは……?」
開けて良いの?
眼だけでそう聞くと、神威はこくんと頷いた。
神威らしく蒼一色で包まれた箱のリボンをほどき、包みをはがす。
中からはいつかだったか、何処かの世界で見た確か“チョコレート”とか言う食べ物が転がり出てきた。
「これ……」
「この世界で、今日は“バレンタイン”とか言う日なんだ。」
「バレンタイン……」
その何処かで聞いたような単語をくり返し、脳内を検索する。


確か……
大切な人にチョコを送る日……


「神威……いいの?」

こくんと頷き
「俺の大切なのは昴流だけだから。」
と、恥ずかしそうに頬を染める神威の珍しい姿に、昴流は起き上がり、思わず神威を抱き寄せた。

「ありがと。」
薄い赤に染まった頬に口づけすると、より一層頬が紅くなる。
「“ホワイトデー”にはお返し、ちゃんとするからね。」
「うん……」

〜END〜
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