―本棚―

□〜闇夜の少女〜
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〜闇夜の少女〜


「本当に……本当に有り難うございました……」
「いいえ、仕事ですから。」
泣き崩れるようにして、しかし嬉しそうな微笑みを浮かべて僕を見送るこの人は、僕を見てどう思っているのだろうか。
うっすら微笑んだつもりだったが、相手に伝わったかどうかは分からない。
言葉も、そして表情も。
相手に伝わらなければ意味はない。
もしかしたら、伝えようとしていることじゃなく、僕の中の悲しみばかりが伝わっているかもしれない。
あの日から、1度も心から笑ったことはないから。

もう日はすっかり落ちていて、それでも誰もいない家に帰る気にはなれず、近くの公園のブランコに腰を下ろした。
懐から煙草を取りだし、火を付ける。
これもあの人の影響だったな、とうっすら思いながら顔を上げると、そこにはさっきまでいなかった少女がいた。
こんな夜中に、こんな小さな子ひとりで。
もしかしたら……
「どうしてそんな哀しそうなの?何処か痛い?」
心配そうなその声は、耳というより心に直接聞こえてくるようだった。
「いいや。哀しいことは、ずっとずっと前のことだから。もう哀しくはないよ」
そう呟いて、思わず己の手に付けられたあの人の印を撫でる。
「そんなはずないよ。」
そんな僕の物言いを、少女は首を振って否定した。
「どんなに時間がたっても、哀しかった思い出は、いつ思い出しても悲しいもの。」
「君も、そうなの?」
「……うん。」
小さく答えた少女は、小さく頷くようなそぶりを見せ、そっと消えていった。
この世にいてはいけない。それはわかっているのだろう。けれど、後悔が尾を引き、この世にとどまっているのだ。
僕も、似たようなモノかもしれない。


あの人を忘れられなくて、笑いコトもなくて、それでもあの人に会うまでは。


腰を上げ、天高くに瞬く星を見上げた。
天の龍と、地の龍……。
そのときに、逢えるだろうか。

「星史郎さん……」

そっと呟いて、僕は誰もいない家へと足を向けた。


〜END〜
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