泣かない人形

□1:真Shin
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さらに1ヶ月が経つ頃には真の橋本への態度も砕けたものになり橋本さんから将貴へと代わった


ある日
取引先の社長が橋本宅を訪れた

「有谷様が直々にいらっしゃるなんて驚きました」

「貴方が最近ご執心な子がいると聞いてね、見に来てみたんですよ」

有谷とは橋本の所と長い付き合いのある大企業の社長だった
物腰柔らかな40代の男性だった

「そうでしたか」

「で、どこにいるのですかな?貴方が執心なさるくらいだ、余程見目麗しいのでしょうなぁ」

「そんなことはありませんよ、リン、真を呼びなさい」

リンはやはり無言で部屋を出て行った




数分後リンは真を連れてきた

「あの、将貴?僕に用事って?」

来客中に呼ばれたことなどなかった真は恐る恐る自分と同じくらいの背のリンに隠れながら部屋に入って来た

「あぁ、そんな怯えないでいいよ、おいで?」

優しく呼べば安心したように橋本の元へ行った
リンは礼儀正しく扉を閉め部屋に入った

「この子が?」

有谷は普通の少年だった事に驚きを隠せてはいない

「えぇ」

橋本の返事に嘘ではないらしいと思った有谷は下世話にも床上手なのではと考えた

「私にも彼を貸してはいただけないかな?」

その台詞に真はビクッと肩を震わせた

「申し訳ありませんがそれはできません」

だがきっぱりと橋本は断った
少なからず仕事での関わりが浅くはない有谷の申し出を断る程橋本は真を大切にしていた

「代わりと言っては何ですがこの子で我慢してはいただけませんか?」

この子といって視線を向けた先には真よりも見目麗しいリン


「そうですね、ではお借りしようか」

「隣の部屋でどうぞ」

「道具は?」

「なんなりと」

会話が終わると有谷はリンを連れ部屋へと入って行った

「不快な思いをさせてすまなかったね」

橋本は真の肩を抱きしめるが真の震えは止まらなかった

「どうした?そんなに怖かっ」
「リンは…」

橋本の話を遮った真の声は震えていた

「リンの仕事って一体なんなの?」

橋本の目を見つめた真の瞳は揺らいでいた

「またその話か、真が気にする必要なんてないんだよ?」

「はぐらかさないでよ!」

こんなに声を荒げた真は初めてだった

「仕方ないな……リンは所謂昌婦だ。取引先が求めればリンを差し出す。それだけさ」

「それだけって…!!リンは好きでもない人に抱かれてるって言うの!?」

「それが仕事だ」

「そんなのあんまりだよっ!リンが可哀相だ!」

「リンは」

「何なんだ一体!!!!」

突然隣の部屋から怒鳴り声が響いた

「どうしましたっ」

橋本が中に入るとそこにはベッドの上で目隠しをされ怯え暴れるリンといきなりの出来事に当惑した有谷がいた

「よくこんな不良品渡してくれましたねっ!今日は帰らせていただきます!!」

憤慨した有谷はずかずかと荷物を持って出ていってしまった

“不良品”という言葉がズンと真の心にのしかかった

「ったく使えないな」

ドカッ

すごい音に勢いよく橋本を見ればリンを殴ってベッドから落としていた

今だ混乱状態にあり目隠しをしたままのリンは受け身も取れずベッドの下でうずくまり震えていた

さらに蹴りを入れようとする橋本に焦った真はリンに駆け寄りリンを守るように抱きしめた

「もうやめてよ将貴っ!!リン怯えてるっ!!!!」

明らかに異常な震え方そして抱きしめて初めてリンの細さに気が付いた

「そいつを渡しなさい真」

橋本の冷たい視線に怯みながらも真は譲らなかった

「嫌だっ!!どうしてこんなことするんだよ!!リンだって生きてるんだよ!??」

「生きてる?そいつが?」

橋本は鼻で笑った

「そいつは良く出来た私の人形だよ」
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