短編

□埋葬事情
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 「知っているかい、政
 宗殿、遠い海の向こう
 の異国では人が死ねば
 土葬にするらしいよ、
 棺に入れて地に埋める
 んだと」

 縁側に腰掛けた俺の主
 治医はいきなりそんな
 ことを言い出した。
 もともと変な奴だ。
 何を言い出したところ
 で驚かない。
 そもそも女の身で医者
 になろうという見識も
 おかしなものだ。
 ただ、そういうところ
 が気に入って傍に置い
 ているということもあ
 るのだが。

 「異国ではいつ復活し
 てもいいよう肉体を残
 しておくんだよ。それ
 に比べて我が国は非常
 に後ろ向きだとは思わ
 ないか、もう復活する
 こともないからせめて
 天に還してやろうと灰
 にする」


 「この地の民のほうが
 現実的ってことじゃね
 ぇか」

 俺はなんともなしに答
 えた。

 「そうだねえ、きっと
 そうだろう、異国の民
 は死んだ人は生き返ら
 ないという現実から目
 をそむけて祈るように
 屍を大地に沈ませるん
 だろう」

 女は目を細めた。

 「政宗殿は生まれ変わ
 ったら鳥になりたいと
 言ったね、そうしたら
 遺体はやっぱり火葬だ
 ろうな、もとの身体で
 復活したら困るものな
 あ」

 「縁起でもねえ」

 「しかし誰にでも死は
 訪れるものだよ、」

 彼女はそこで一度言葉
 に間をおき、ふうと息
 をついて言ったのだ。

 「復活という在りもし
 ない奇跡を待ち続ける
 のと、すべてを諦めて
 天から転生を待ち望む
 のと、どちらが幸せな
 んだろうかねえ、どち
 らにしろ待たなければ
 ならない・・・死とは実
 に複雑怪奇だ」
 一見悲愴さを持ってい
 るふりしてお気楽なや
 つめ。

 後追いってものがある
 んだぜ、とはそのとき
 口にはしなかった。





 (1024)埋葬事情

 少女Hの憂鬱の某僕っ子みた
 いな子が書きたかった。
 まさかの初筆頭で死亡フラグ






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