パラレル小話(セカコイ)

□略奪者
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バーカ。
吐き捨てられた言葉に、顔をしかめる。
まったく迂闊だったとしか言いようがない。
悔しさに唇を噛みしめても、時すでに遅しだ。

律は動くこともできずに、床に転がっていた。
その横にはバスローブ姿の男が立ち、冷たい目で見下ろしている。
律が男を睨み上げると、男が「バーカ」と言い放って裸足の足で律の顔を踏みつけた。
悪態をついてやりたいところだが、呂律が回らず意味不明な呻き声にしかならない。

仕掛けはミネラルウォーターではなく、財布に施されていた。
ジャケットから財布を引き出すと針が飛び出すようになっており、薬物はその針に塗られていたのだ。
律はまんまと男の策にはまり、床に倒れて動けなくなっていた。
そこへシャワーを浴び終えた男が悠々と戻ってきたというわけだ。

ひとしきり律の頭や髪を足で突き回して満足したらしい男が、律の身体を抱き上げた。
そのまま軽々と寝室へ向かい、ダブルサイズのベットに律を放り投げる。
小柄な律の身体が、ベットの上でバウンドした。
男は黒い笑みを浮かべながら、律の身体に馬乗りになり、律の着衣に手をかける。

やっぱりこの男は性格が悪い。
どうせ薬を盛るなら、睡眠薬にでもしてくれればいいものを。
意識ははっきりしてて、身体だけ動かせないなんて。
こんな屈辱、いっそ死んだ方がマシだ。

もうダメだ。
ゆっくりと1枚ずつ、焦らすように律の服を剥いでいく男の目の色は、常軌を逸している。
律は早く男が欲望を満たしてくれることを祈りながら、諦めたように目を閉じた。


高野はぐったりとベットに横たわるかわいい獲物を、楽しそうに見下ろしていた。
最初から高野に抱かれるつもりなどないこともわかっていた。
それを出し抜いて、組み敷いてやるのがいいのだ。
そもそも略奪目的で近づいてきたのだから、警察になど行けないだろう。

薬で動けない美しい青年の肌を、わざと時間をかけて暴いてやった。
明るい照明の下で全部剥ぎ取って、指や唇で身体中を探る。
悔しそうに高野を睨み上げながら、快感に震える青年を眺めるのは愉快だった。

意外だったのは、この青年は色事に関してはまったく不慣れなことだった。
どうやらナンパして金品を巻き上げても、セックスなどはしていなかったのだろう。
与えられた淫らな快楽に感じてしまう自分の身体にひどく動揺していた。
そんな様子さえ楽しくて、高野は青年の身体をたっぷりと味わった。
そしていつしか青年は気を失ってしまい、そのまま夜が明けた。

朝陽の中で目を覚ました青年は、一瞬何が起きたかわかっていないようだった。
だが自分を見下ろしている高野と目が合って、思い出したらしい。
慌てて起き上がろうとして、すぐに阻まれてしまう。
青年が眠っている間に、薬の効果は消えている。
だが高野は、手錠と足枷で青年をベットにくくり付けてしまっていたのだ。

もう充分でしょう?俺を帰してください!
怒声と共に睨み上げる手負いの青年を、高野はうっとりと見下ろした。
一糸纏わぬ白い裸身に散らされた鬱血や歯の噛み痕は、痛々しくも美しい。

お前が気に入ったから、ずっとここで飼うことにした。
高野はしれっとそう言い放った。
青年が「はぁぁ?」と声を上げるが、高野は涼しい顔で「悪いな」と受け流す。
何とか逃れようと青年が身を捩るたびに、彼をベットに磔る枷がガチャガチャと音を立てた。

触るな!この横暴、変態野郎!
美しい獲物が、顔に似合わぬ悪態をつく。
だがこんなに魅力的な獲物を、みすみす逃がすつもりはない。
綺麗な容姿、気の強い性格、そして淫らな身体。
ここに監禁して、セックスに不慣れな身体を高野好みにとことん躾けてやる。

これから2人の歪んだ蜜月が始まる。
律を身体ごと閉じ込めた高野と、高野の心を捕まえた律。
さて略奪者はどちらだろう?

【END】お題小説に続編を掲載しています。
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