パラレル小話(セカコイ)

□クラブ「エメラルド」へようこそ
2ページ/11ページ

政宗、お前アイツとヤったのか?
クラブ「エメラルド」の店長、横澤は稼ぎ頭のホストにそう聞いた。
嵯峨はニヤニヤと笑いながら、艶っぽく仕上がっただろ?と嗤う。

今日の売り上げのナンバーワンは、ダントツで嵯峨だった。
普段はだいたい嵯峨と羽鳥が、1位を争っている。
1位になる比率は五分五分で、その差はいつも僅差だった。
だがここ何日かは大差がついており、その原因は間違いなく律だ。
デビューしたばかりの律は、店に慣れるまでしばらくは指名を受けないことになっている。
嵯峨の指名テーブルにサポートとしてつくのだ。
だから律目当ての客が、嵯峨を指名した。

律を拾った嵯峨は、自分のマンションに律を住まわせている。
風呂に入れて、食事を与えて、充分な休息を取らせた。
美容院やエステ、ネイルサロンに通わせて、美しく装わせて。
服や靴やアクセサリーも買い与えて、ホストとして働けるように準備もした。
店での立ち居振る舞いだって、しっかりと教え込んだ。
金も時間も手間も惜しまず「律」という商品を作り上げたのだ。

横澤と嵯峨は、実は学生時代からの友人だ。
というか横澤がクラブ「エメラルド」の店長を任されたとき、嵯峨を呼んだのだ。
だから横澤は仕事以外でもたびたび嵯峨のマンションを訪ねていた。
そして嵯峨が律を磨き上げる様子をずっと見ていたのだ。
最初はこんなに汚い子供が、商品になるなどとは思わなかった。
まるで蝶が孵化するように、美しく変貌する律には驚くしかなかった。

今まで投資した分、律には稼いでもらうさ。
嵯峨はそう言って、ニンマリと嗤う。
横澤は「それだけじゃねぇだろ?」と皮肉を込めて聞いた。
だが嵯峨は「何をだ?」と逆に聞き返してきた。
わかっているのか、いないのか?
横澤はじっと嵯峨の顔を見たが、からかうような表情からは何もわからない。

嵯峨は律に、生活は全部面倒を見るかわりに、何でも言うことを聞くように言ったらしい。
つまり律が店で稼ぐ金は、全部嵯峨が取ることになっている。
そうやって自分好みに作り上げて、そして逃げられないようにしたのだ。

つまり惚れてるんじゃないのか?
横澤にはそう思えてならない。
店長としては余計な揉め事は避けたいというだけではない。
嵯峨に想いを寄せる者として、どうしても心中穏やかではいられない。

律は売れっ子になる。店長としてはいいことだろ?
嵯峨が軽口をたたいても、横澤の気分が晴れることはなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ