パラレル小話(セカコイ)
□Voice Actor1
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コイツ、綺麗な顔してるな。
それが高野政宗の共演者への第一印象だった。
高野政宗は、人気声優だ。
アニメが好きなら、その名を知っている者は多い。
男っぽいハスキーで艶っぽい声で、特に女性のファンが多い。
だがその素顔については、ほとんど知られていなかった。
高野は顔写真はおろか、年齢や出身地等のプロフィールを一切公開していないからだ。
ファンを集めたサイン会やトークショーなどにも顔を出さない。
もっと言えば本名さえも明かしていないのだ。
声優として活動するときには「嵯峨政宗」と名乗っていた。
マニアの間では「嵯峨政宗」はものすごい醜男なのではないかという噂がある。
あまりにも徹底的にその素性を隠すからだ。
だが実際の高野は整った美貌とスラリとした長身。
モデルと言っても通りそうなほどの美しい容姿をしている。
実は声優養成所の入学試験のとき、同じプロダクションが運営する俳優養成所を勧められたほどだ。
その後も所属事務所は、もっと世間に顔を出すべきだと言った。
こんなに美しいビジュアルなのだから、人気が上がるのは間違いない。
だが高野は頑としてそれを拒んでいた。
子供の頃、好きなアニメキャラクターの声優の素顔を知って、ひどくガッカリしたからだ。
今ならわかる。あくまで演じているだけで、声優イコールキャラクターではない。
だが当時は顔の落差にがっかりし、さらにインタビューを聞いて失望した。
クールな二枚目を演じる声優は、ひどくひょうきんな性格だったのだ。
そこから今の高野のスタイルとポリシーが出来上がった。
声の俳優は決して顔を出すものではないと。
織田律です。よろしくお願いします。
まだ若い綺麗な青年が、高野に頭を下げる。
高野は「嵯峨政宗。よろしく」と短く答えて、青年の髪に手を伸ばした。
サラサラと触り心地のよい髪が、高野の指先を楽しませる。
律はその行為に頬を真っ赤に染めた。