パラレル小話(セカコイ)

□Voice Actor1
2ページ/9ページ

コイツ、綺麗な顔してるな。
それが高野政宗の共演者への第一印象だった。

高野政宗は、人気声優だ。
アニメが好きなら、その名を知っている者は多い。
男っぽいハスキーで艶っぽい声で、特に女性のファンが多い。

だがその素顔については、ほとんど知られていなかった。
高野は顔写真はおろか、年齢や出身地等のプロフィールを一切公開していないからだ。
ファンを集めたサイン会やトークショーなどにも顔を出さない。
もっと言えば本名さえも明かしていないのだ。
声優として活動するときには「嵯峨政宗」と名乗っていた。

マニアの間では「嵯峨政宗」はものすごい醜男なのではないかという噂がある。
あまりにも徹底的にその素性を隠すからだ。
だが実際の高野は整った美貌とスラリとした長身。
モデルと言っても通りそうなほどの美しい容姿をしている。

実は声優養成所の入学試験のとき、同じプロダクションが運営する俳優養成所を勧められたほどだ。
その後も所属事務所は、もっと世間に顔を出すべきだと言った。
こんなに美しいビジュアルなのだから、人気が上がるのは間違いない。

だが高野は頑としてそれを拒んでいた。
子供の頃、好きなアニメキャラクターの声優の素顔を知って、ひどくガッカリしたからだ。
今ならわかる。あくまで演じているだけで、声優イコールキャラクターではない。
だが当時は顔の落差にがっかりし、さらにインタビューを聞いて失望した。
クールな二枚目を演じる声優は、ひどくひょうきんな性格だったのだ。
そこから今の高野のスタイルとポリシーが出来上がった。
声の俳優は決して顔を出すものではないと。

織田律です。よろしくお願いします。
まだ若い綺麗な青年が、高野に頭を下げる。
高野は「嵯峨政宗。よろしく」と短く答えて、青年の髪に手を伸ばした。
サラサラと触り心地のよい髪が、高野の指先を楽しませる。
律はその行為に頬を真っ赤に染めた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ