パラレル小話(セカコイ)

□Voice Actor2
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どうしたらいいと思います?
恋人は眉間にしわを寄せながら、聞いてきた。
彼の美しい顔が歪むのが嫌で、高野は恋人の眉間に指を当てて伸ばした。

高野政宗は「嵯峨政宗」という名前で声優をしている。
その甘い声は特に女性に大人気で、アニメの美青年役が多く回って来る。
仕事は順風満帆。
新しい仕事のオファーは引きも切らず、ことわらなければならないものもあるほどだ。

そして私生活もまた充実していた。
恋人である小野寺律とは、絶賛同棲中だ。
世間的にはルームシェア。
同じ男であるから、それも通用する。
中には勘ぐって「もしかして恋人?」などと言うヤツもいる。
そんな時にはあえて「ラブラブだよ」と答えてやるのだ。
それは本当のことなのだが、堂々と宣言すると逆に冗談だと思うらしい。

そして今、自宅で寛ぐ高野の目の前に、ラブラブ中の律がいた。
真剣な顔で「どうしたらいいと思います?」と聞いてくる。
律もまた声優であるのだが、高野ほどの仕事のオファーはない。
声だって魅力的だし、演技の実力もある。
だが顔出しを極端に嫌うので、仕事もどうしても限られてくるのだ。
高野も声優の顔出しには否定的で、できればあまり表に出ない方がいいと思っている。
だが律ほど極端に「NG」を出しておらず、それが仕事量の差になっているのだと思う。

あまり険しい顔すんな。
高野は右手の人差し指を律の眉間に当てて、グリグリとしわを伸ばした。
それが気に障ったらしく、律は「俺、真剣なんですけど!」とムキになる。
そんな様子も可愛いと言ったら、律はきっと拗ねてしまうだろう。
高野はこっそりとため息をついた。

律には今、2つの仕事が来ていた。
1つは通販のナレーションの仕事。
商品は、ダイエットに効くサプリメントだ。
これを1日3回飲むだけで痩せられます。
きつい運動などしなくても、大丈夫!
そんな宣伝文句を、明るく元気に読み上げるのだ。

もう1つはなんと、舞台の仕事だった。
律が主役を務めたアニメ映画を、何と実写でしかも舞台化するのだそうだ。
そこでアニメで好評、しかもビジュアルも申し分のない律が抜擢されたのだった。

顔出しが嫌なら、サプリメントのナレーションなんでしょうけど。
でも自分が効果を信じてない広告なんて、読みたくないですよ。
飲むだけで痩せるなんて、そんなサプリがあるなら、世の中に肥満の人はいなくなるでしょう。
結果にコミットするスポーツジムが繁盛するわけないし!

律は息巻いて、最初の仕事のダメ出しをする。
以前に律は菓子のコマーシャルのナレーションをしたことがある。
そのときに新商品だという菓子を試食して、口に合わなかったのだ。
何とか我慢してナレーションはしたが、後味の悪い仕事だった。
それ以来、CMナレーションには否定的だった。

じゃあ舞台の仕事か?
高野がそう聞くと、律は「できるわけないでしょ」と即答した。
元々子役や俳優志望で声優をしている者は、舞台演技も勉強している。
だが律は最初から声優しか、眼中になかった。
だからレッスンで演技指導は受けているが、自分自身が人前で演技をした経験がない。
律は顔出しNG以前に、舞台など無理だと思っているのだ。

舞台で演じるのは、勉強になると思う。
それにお前はできると思うぞ。
最終的に決めるのはお前だけど、俺は舞台に立つお前が見てみたい。

高野は静かにそう告げた。
先輩としての助言、恋人としての意見。
それを押し付けにならない程度にさりげなく、だがはっきりと伝えた。

ありがとうございます。
律は納得してくれたようで、ようやく笑った。
高野が愛してやまない、美しい笑顔だ。
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