パラレル小話(セカコイ)

□マーメイド奇譚
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★その1・人魚 翔太★

よいしょ、よいしょ、よいしょ。
俺たちは掛け声をかけながら、船を揺すっている。
この船には、4人の王子様が乗っているから。
船を転覆させて、王子様を助けて、命の恩人として近づくんだ。
過去の人魚たちの話を聞く限り、これが一番成功率が高いんだってさ。

王様から俺たちに下されたミッションは、4人の王子の誰かと恋をすること。
こっちも4人だから、人数は合う!って言いたいところだけど。
一番年長の王子様は、もうすでにお妃さまがいるんだ。
お妃さまは病気で亡くなったけど、2人の間には忘れ形見の姫がいる。
今でも亡くなったお妃さまを愛してるって話だ。
つまりこの王子は、堕とせる可能性が限りなく低い。

実質王子3人に人魚4人、1人余るじゃねーかよ。
合コンだって、人数合わせるのは基本だろ?
あ、海の中でも合コンってあるんだぜ。

それにしても、地味な作業だ。
人魚が4人、船底にへばりついて、必死に揺すってるんだから。
人間たちは人魚に綺麗なイメージ持ってるみたいだけど、この姿見たら認識変わるだろうな。
とにかく今の様子を一言で言うなら「カッコ悪い」に尽きる。

おっと。ようやく船が傾いた!
おーおー、王子様4人、海に投げ出されたよ。
取りあえず王子様たちは陸に連れてって、砂浜に寝かせておく。
うわ、めんどくせ。家来も1人、海に落ちたよ。
まぁ王子以外は別にほっといていいよな。
いや、千秋ちゃんが家来も助けてる。
あの子真面目だな。

ちなみに俺が目をつけてるのは、一番末の王子の雪名。
典型的な王子様顔で、一番俺の好みのどストライクなんだ。
子孫を残すのが第一目的なんだから、やっぱり気に入った相手がいい。
それでもって今の気分は技巧より、若さに任せた勢いが欲しい気分なんだ。
なんの話だって?生殖行為。すなわちセックス。

さてここまでは4人の共同作業だ。
ここから先は単独行動になる。
王子たちには暗示をかけて、一番最初に見た人魚を命の恩人と思い込むようにした。
真っ先に好みの王子様の視界に入らなくてはいけない。
つまり早い者勝ちだ。

よ〜い、ドン!
掛け声とともに、俺たちは走り出した。
ふと横を見ると、律っちゃんと隆史君は迷わず第二王子の高野に向かってる。
千秋ちゃんは誰にするか決めかねているようで、少々足取り重め。
ラッキ〜♪誰も雪名王子には目をつけていないんだ。

ああ、ワクワクしちゃうな。王子様との恋。
豪華な宮殿とかに招待されちゃうかな。
お姫様みたいにエスコートされちゃうかな。
うわぁ、一生に一度そういう夢みたいなことをされてみたい。

俺は雪名王子の元にたどり着いた。
そっとその横に膝をつくと、王子様に覆いかぶさって顔を寄せる。
何するかって?キスに決まってるでしょ。
恋は先手必勝。
それにせっかくの美味しそうな王子様の唇、早くゴチになりたい。

俺の熱いキスで、王子様は目を開けた。
連戦連勝の勝負顔で「大丈夫ですか?」と聞いてやる。
顔の角度はやや左斜め、俺が一番かわいく見える角度。

あなたが助けてくれたんですか?
問いかける王子様の目は、ハートマークになってる。
俺はミッション成功を確信した。
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