パラレル小話(セカコイ)

□エメラルドコレクター
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いつまでモタモタしてやがるんだ!
高野は刑事たちがいる部屋に突入すると、デカい声を張り上げた。
どうやら高野の襲来を予想していたらしい刑事たちは、ウンザリした表情になった。

勤務が明けた高野は、刑事課の部屋へと乗り込んだ。
所属する強行班係の刑事のうち、在席しているのは半分程度だ。
残りは目撃情報の聞き込みなど、捜査に当たっているのだろう。

刑事たちは皆一様に疲れた表情をしている。
それも無理もないことだ。
連続通り魔事件の被害者はすでに4人目だ。
管轄の丸川署では刑事を総動員して、不眠不休の捜査に当たっている。
だがそれを嘲笑うかのように、まったく手がかりがなかった。

いいかげんに、とっとと犯人を捕まえやがれ!
グッタリする刑事課の刑事たちとは対照的に、高野のテンションは高い。
理由は簡単、高野ら機動捜査隊、通称「機捜」所属する刑事は初動捜査専門だからだ。
キッチリとした時間勤務なので、休息は充分なのだ。

ありがたいことだが、1つの事件にじっくり関われないのはつらいときもある。
特に今回のような凶悪な未解決事件を直接捜査できないのはストレスが溜まるものだ。
だからこうして刑事課の部屋へと乗り込んできたのだ。
気になる事件の捜査状況を聞き、捜査できない不満をぶつけてやるためだ。

うるせーな!テメーら機捜が初動で犯人を捕まえとけば、とっくに解決だろーが!
グッタリする刑事たちの間で、ウンザリするようなテンションで言い返すのは横澤だ。
どんな凶悪犯にも怯まない武闘派で「暴れグマ」の異名を持つ。
だが時々被害者や目撃者をビビらせてしまうという欠点もあったりする。

何を言い争ってるんですか!事件も解決していないのに!
刑事部屋の入口から、凛とした声が響いた。
制服姿の美貌の青年が腕組みをしながら、呆れた表情で立っている。
彼こそがこの丸川署の署長、小野寺律だ。
刑事たちの誰よりも歳若い律は、国家公務員採用T種試験合格者、いわゆる「キャリア」だ。
当然出世を約束された人間で、ここの署長職も短い期間の腰掛けに過ぎない。

ったく!これ以上被害者を出してはいけません。喧嘩している暇なんか。。。
そう言いながら、ツカツカと刑事部屋に入ってきた律は、思い切り柱に激突した。
律は右目を押さえながら「コンタクトが取れた!」と叫ぶ。
このキャリア署長は、見かけによらずドジなのだ。
だが事件解決への意気込みは強いし、被害者への思いやりや犯人への敵意などの情も熱い。
だから着任当初は反発も強かったのに、今はすっかり刑事たちのアイドル的存在になっている。

高野は「何やってんだ、バカ!」と慌てて律に駆け寄る。
律は右目を押さえながら「誰のせいだ、誰の!」と怒鳴り返した。
実は高野と律は恋人同士だったりする。
高野は「エメラルドコレクター」という通り魔が現れたとき、律の心配をした。
可愛らしい容姿は被害者と合致する上、緑がかった色の瞳の持ち主なのだ。
まさかとは思うが、用心に越したことはない。
高野は嫌がる律を拝み倒して、カラーコンタクトレンズを付けさせ、瞳の色を隠している。
だが元々視力がいい律にはどうもコンタクトレンズは合わないようで、しばしばドアや柱に激突している。

よりによって今回の被害者「くまや」の店員さんだそうですね。
取れたコンタクトを入れて、琥珀色の瞳になった律が悔しそうに言った。
その言葉に、高野は思い出す。
木佐翔太は署の向かいにある定食屋の従業員で、食事や出前などで刑事たちは世話になっている。

早く犯人を捕まえて、この忌々しいコンタクトを外させてください。
律がそう言って頭を下げると、刑事たちが「おう」「まかせとけ」と応じている。
どうやら高野の怒鳴り声よりかわいい署長の一声のほうが、刑事たちのやる気を呼び起こすようだ。
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