パラレル小話(セカコイ)

□協力者
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最初はかなり戸惑っていた。
自分の置かれていた状況は、あまりにも奇妙だったからだ。
だがもうすっかり慣れてしまったと、柳瀬は思う。

千秋さん、社長は母屋に寄っておられます。すぐにいらっしゃるのでご準備を。
帰宅した柳瀬がそう声をかけると、千秋は「はい」と短く答えて、手早く服を脱ぎ捨てた。
すでに入浴は済ませているようで、シャンプーの香りがする。
柳瀬が千秋の裸身を背後から抱きしめて敏感な場所に指を這わせると、千秋が悩ましく喘いだ。
千秋のすぐに感じてしまう淫らな身体が楽しくて、柳瀬は唇を歪めて笑った。

柳瀬優と羽鳥芳雪の関係は、実は祖父母の代まで遡る。
発端は柳瀬の祖母が、羽鳥の祖父の愛人だったこと。
つまり羽鳥の父親と柳瀬の父親は異母兄弟、羽鳥と柳瀬は従兄弟同士になる。

それなのに羽鳥の父も、羽鳥もそれを知らない。
柳瀬父子が秘書であるのは、ただ単に柳瀬の父が羽鳥の祖父に見出されたと思っている。
柳瀬の父親は羽鳥の父親の秘書で、柳瀬は羽鳥の秘書。
羽鳥は柳瀬と自分との関係をそれだけだと思っているだろう。

柳瀬の父は未だにいつか羽鳥家の会社や資産を奪ってやるという野心があるようだ。
だが柳瀬にはそんなものはなかった。
羽鳥の秘書になったのは、ただ見極めたかったからだ。
望んでもいないのに、羽鳥家の協力者にさせられた柳瀬父子。
ここまで柳瀬の運命に影響をもたらした羽鳥家の跡取り息子はどういう男なのか。

だがどうしてこうなったのだろう?
広大な羽鳥邸、羽鳥は敷地内の一般的な一軒家よりも広大な離れを1人で使っている。
柳瀬がそこに同居することになったのは別にいい。
羽鳥は昼も夜もなく精力的に仕事をする男なので、同居した方が管理もしやすいからだ。
だがそこに愛人が送り込まれ、しかもそれは男で、3人で同居している。

羽鳥という男は決して柳瀬のことを好いてはいない。
柳瀬もそうなのだから、そのことに対して不満はない。
羽鳥は柳瀬を完全に自分の手足だと考えており、だが同時に絶対的な信頼を置いている。
だから仕事では、柳瀬の裁量である程度重要な決定ができる権限も与えられた。
そしてそれはこの愛人の青年、千秋においても同じだった。

羽鳥は千秋と身体を重ねるとき、柳瀬の存在をまったく気にしない。
むしろ見せつけるように千秋を裸身を晒し、時には柳瀬にも加わるように命令する。
さらに羽鳥が不在のときには、千秋で好きに遊んでいいとまで言われている。
最初は羽鳥のこの性癖に呆れた。
愛人を作る祖父と、息子に男の愛人を贈る父親。
その一族にして、この息子があるのだと思った。

だが千秋が乱れる様を見ていると、羽鳥のやり方は正しいのだと思う。
年齢の割りに童顔でかわいらしい少年のようなこの愛人は、実はかなり淫蕩だ。
羽鳥の手管で乱れて堕ちる姿は、花が咲くように美しい。
そこに柳瀬が加われば、千秋はますます艶っぽく色めく。

せっかちだな、柳瀬。
やがて帰宅した羽鳥が、柳瀬と千秋がからみ合っているのを見て、呆れた声でそう言った。
千秋は一糸纏わぬ姿で押し倒されて息も絶え絶えなのに、柳瀬はまだスーツ姿だったからだ。
しかも場所は寝室ではなく、リビングの床だ。
これはせっかちと言われても仕方がないと、柳瀬も思わず苦笑する。

羽鳥という男がどういう人間かわかったら、秘書など辞めるつもりだった。
だが今は、千秋の身体に飽きるまではこの生活も悪くないと思っている。
この花を狂い咲かせるためなら、いくらでも協力してやろう。
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