パラレル小話(セカコイ)

□怪盗サーガと秘宝エメラルド
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だからってどうして連れてきたんですか?
羽鳥は高野の腕の中にいる巫女を見ながら、呆れた声でそう言った。

羽鳥芳雪は巷を騒がす怪盗サーガのメンバーで、リーダー高野を支えるサブリーダーだ。
そして今回のターゲットは王家の秘宝エメラルド。
これはいつものように庶民に与えるわけではない。
羽鳥の幼なじみにして愛する青年、吉野千秋のために欲しかった。
千秋は流行り病にかかっており、いつ死んでもおかしくないほどに衰弱しきっている。
だから願いを叶える秘宝に、千秋の病気治癒を祈るつもりなのだ。

本当は城に押し入るのも、自分でしたかった。
だが今回は今までの中でもとびきり難しくて、危険な仕事だ。
リーダー高野は頑として許可してくれなかった。
せめて少しは千秋のためにこのミッションに加わりたい。

だからこうして送迎担当を志願し、こうして城の近くの物陰に馬車を停めて高野を待っていた。
高野が馬車を降りて城に向かった後は、羽鳥にとっては永遠とも思えるほどの長い時間だった。
そしてようやく夜道を戻ってきた高野の姿を見つけた羽鳥はホッと。。。しなかった。

高野は何と人間を1人、肩に担いで戻ってきたのだ。
白い長衣の上からでもわかる細い身体は、どうやら意識を失っているらしい。
茶色の髪がサラサラと顔を隠しているので、表情はわからない。

コイツの首にかかってるのが、秘宝エメラルド。
そんでコイツは、秘宝を守る巫女だ。
高野はそう言いながら、肩に担いだ巫女を馬車に乗せる。
そして自分も場所に乗り込むと、巫女の身体を抱え込んだ。

だからってどうして連れてきたんですか?
羽鳥は高野の腕の中にいる巫女を見ながら、呆れた声でそう言った。
今まで怪盗サーガは金品の強奪は繰り返したが、誘拐などしたことがない。
しかも王の城に仕える人間を連れ去ってくるとは、とんでもない暴挙だ。

コイツがすんなり秘宝を渡してくれなくてな。
しれっとそう言いながら巫女の髪をなでる高野を見て、もう何か言う気が失せた。
どうやら高野はこの巫女が気に入ってしまったらしい。
羽鳥はため息を1つつくと、馬車を走らせた。
長居は無用、早くこの秘宝で千秋を楽にしてやりたい。

逸る気持ちを懸命に抑えながら、羽鳥は馬車を操る。
早く千秋の元にたどり着きたいが、変に飛ばして目をつけられても困る。
静かに目立たないように、でも急いで。
羽鳥は懸命に馬車を走らせ、千秋と暮らす小さな家へと戻った。

狭い家では病の千秋がベットに横たわり、ハァハァと荒い呼吸をしていた。
その横では怪盗サーガのメンバー、美濃と木佐が千秋の看病している。
2人は無事に戻った羽鳥と高野を見て、一瞬ホッとした表情になる。
だが次の瞬間、高野の肩に担がれている巫女を見て、ギョッとした。
羽鳥は構わずに巫女から、首飾りを外した。

王家の秘宝エメラルド、この者の病を治せ!
羽鳥はエメラルドがはめ込まれた台座の部分を掴んで、昏睡状態の千秋にかざして叫んだ。
願いが聞き届けられれば、エメラルドが光ると言われている。
だが何も起きなかった。
首飾りが光ることも、昏睡状態の千秋が目覚めることもなかった。

どうして!秘宝は願いをかなえてくれるんじゃなかったの?
木佐は悲鳴のように叫んだ。
だが誰もが答えることができない。
医師も薬師も祈祷師も見放した千秋の病。
秘宝もダメなら、もう打つ手がない。

秘宝は使う者を選びます。少なくても盗賊の願いなど聞きません。
静まり返った家の中に響いたのは、聞き覚えのない声。
高野の腕の中で目を覚ました巫女のものだった。
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