短編(セカコイ)

□メガネトリック
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律は何の気なしにメガネケースからメガネを出した。
そして自分でかけてみる。
度が強いメガネは、もちろん律には合わない。
世界が歪んで見えるのだ。
こんなメガネかけてるから、あの人あんなに性格歪んでるんじゃないか?
勝手にそんなことを思いながら、一応鏡を見てみた。
だが眼鏡越しの視界では、このメガネが律に似合っているかどうかわからない。

律は小さく「そうだ!」と声を上げた。
郵便受けに放り込んで、メールでもすればいい。
何か言われたら、夜遅かったので寝てるかもしれないと思ったとか言おう。
それならば、あの俺様上司も文句はつけられないはずだ。
律はメガネをケースに戻すと、意を決して立ち上がった。

物音に気がついて、隣人が出てきてしまうことはさけたい。
律は足音を忍ばせて、室内を移動した。
音をたてないように、そっとドアロックを外す。
さらに慎重にドアを開けて廊下に出た。
そして高野の部屋の前まで来ると、ゆっくりとメガネケースを郵便受けに押し込む。

そこで律は「あれ?」と小さく声を上げた。
メガネケースの幅が大きくて、あと少しで郵便受けに入らないのだ。
アイツ、なんだってこんな中途半端なサイズのメガネケース、使ってんだ!
律は心の中で、呪詛の言葉を吐いた。
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