長編(アイシ)

□モノローグ1
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* Hiruma Side -1- *

例え何があろうとも。あの光速の足は絶対に手放せない。

最初にあの足が欲しいと思ったのは、3兄弟から逃げ切るあの見事な走りを目撃したとき。
その思いが強くなったのは、多分春の王城戦のあたりだと思う。
王城戦で進に何度も倒されながら向かっていったあいつ。
その次の日、雨の中でラダードリルを踏んでいたあいつ。
こいつは足だけのやつじゃない。その情熱。ひたむきさ。
そして本人は気づいていないであろう才能。
クリスマスボウルに行くためには絶対に必要な駒になる。

そして。注意深くセナを観察していて、俺は気がついた。
セナはあろうことか同じ男である俺に恋をしていることに。
冗談じゃない。俺にはそういう趣味はない。仮にあってもあいつはタイプじゃない。
セナには恋愛経験はまったくない。せいぜい淡い片思いくらいだろう。
そんなことは俺の手帳に頼るまでもなく、見ているだけでわかる。
最初は放っておくつもりだった。セナ本人にも告白等のアクションを起こす意思はなさそうだし。
でも瀧の妹の糞チア・鈴音がセナを見る視線にもまた恋心が潜んでいることに気づいた。
それに過保護な糞マネこと姉崎のセナへの執着。恋に変わらない保障はない。
この先セナがアイシールド21であることを知る者は増えていく筈だ。そして狙うヤツも増える。
セナの心がそういうものに絡み取られて、結果アメフトに身が入らなくなったら。
流されやすいセナがアメフトにマイナス効果をもたらす恋をする可能性は低くない。

結局俺はセナに嘘の告白をした。
誰もいない部室に呼び出して、そっと抱きしめてキスをした。
俺の腕の中のセナの小さな身体が歓喜に震えていた。
そうだ。このままクリスマスボウルまで、テメーの身も心も俺のものだ。
俺はこうして黄金の足を自分に縛りつけ、閉じ込めた。

最近のセナはどうも調子が悪いように見える。
40ヤード走のタイムがばらついている。セナの最大の武器が足なのに。
顔色が悪いし、少し痩せたような気もする。
調子が悪いあいつを見ていると妙な不安もこみ上げてくる。
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