頂き物&献上品(アイシ)
□【頂き物】A HAPPY NEW YEAR
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ざわざわと人混みの中を歩く人物が二人。
行く先は元旦なのだからもちろん初詣のための神社だ。
一人は泥門近辺においてその名を知らぬ者は居ないという最恐悪魔、ヒル魔妖一。
そしてその隣を歩くのは…茶色の髪に赤い簪を差し、豪奢で、だけど可愛らしい着物を着た美少女。
道行く人々はまずヒル魔に驚き、そしてその隣を歩く美少女に驚く。
ヒル魔が隣に女の子を連れているのはまだしも、手を繋いで歩いていることに驚愕し皆一様に通りすぎたあと目を擦る。
「…あの、ヒル魔さん…」
「あ?」
「み、みんな見てくるんです、けど…」
「そうだな」
「やっぱ…似合ってないんじゃ…」
恥ずかしそうに俯く少女にヒル魔は喉の奥で笑う。
そして繋いだ手をぎゅっと握る。
「んなことねぇよ。すっげぇ似合って可愛ぜ…セナ」
「っ…ふ、複雑ですけど…どうも…」
頬を染めるセナはやっぱり可愛いとヒル魔は思った。
前述の通り、今ヒル魔と手を繋いで歩く美少女はセナだった。
とはいえパッと見はセナに見えはしない。
髪も地毛と同じカンジのウィッグをつけているし、薄くだが化粧もしている。
そもそも何故セナがこんな姿…つまり女装をしているかというと、それは朝ヒル魔が言ったことが発端だった。
初詣に行くので着替えろ、と言って持ってきたのがこの女物の着物だった。
冒頭の言い争いはそれを着る着ないというものだったのである。
「あーでもホントなんでみんな見るんだよー…」
ブツクサ呟くセナにつられてヒル魔は周りをサッと見渡す。
確かに人々の注目を集めてはいる。
それは自分という存在があるせいでもあるが…やはりセナが人目をひいているからだ。
それも悪い意味ではない。
化粧した顔は幼さと可愛らしさが際立ち、薄く紅をひいた唇は思わず目を奪われる。
「…テメェのせいだ」
「は?!僕ですか!?」
なんでですか!やっぱり似合ってないんじゃないですか!
そう怒るセナにヒル魔は苦笑する。
全くこの子供は自分の価値をまるでわかっていない。
もうあと少し、というところで人の波から外れてヒル魔は立ち止まる。
「あのなぁ…俺はさっき似合ってるって言っただろ」
「…そう、ですけど…」
「それとも何だ、テメェは俺の言うことが嘘だと思ってんのか」
ヒル魔の言葉にセナは首をゆるく振って否定を示した。
嘘だなんて思ってはいない。ヒル魔は嘘だけはつかない男だ。…まぁ試合のときとかは別として。
じゃあどうして、そう言葉にせずに問いかければヒル魔は眉を潜め…徐にセナの身体を抱き寄せた。
そして赤い唇に口づけた。
「な…」
「うぜぇ視線はな、チビが可愛いからだよ」
「な、な…」
わなわなと戦慄くセナの顔は真っ赤に染まった。
ヒル魔はそれを見て満足そうに笑うと、セナの身体を離し再び手をひき歩き出す。
「おら、さっさと行くぞ。お参りしてぇんだろ?」
「あ、わっ、ひっぱらないでくださいっ!」