長編(セカコイ)

□千秋と律のガールストーク
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トリのバカ!!
吉野千秋は心の中で悪態をついた。
苛立ちを口にこそ出していないが、それは態度に表れている。
顔は思いっきりしかめっ面だし、アスファルトの道路をドカドカと踏み鳴らす勢いだ。

吉野と羽鳥はケンカをした。
この2人にとってはさほど珍しい話ではなく、もっと言えば「何を今さら」という感じだ。
だが吉野は今回も本気で怒っていた。

きっかけは「ザ☆漢」のイベントだった。
都内の美術館で原画や資料などを展示する展覧会で、入場するにはコミックスについている応募券を送る。
抽選で当たれば見ることができるというものだ。
吉野も応募したが、残念ながら当選しなかった。
そのチケットを柳瀬優が手に入れた。
伊集院響の仕事をしている柳瀬が、応募したけど当たらなかったのだと言ったら貰えたらしい。
2人分もらったけど行く?と電話をもらった。
少し迷ったものの、結局柳瀬と2人で出かけた。
それを知った羽鳥が激怒したのだった。

吉野にだって言い分はある。
もし時間的な猶予があれば、吉野だって事前に羽鳥に話をしていた。
羽鳥とは恋人同士だし、柳瀬は友人だが過去に吉野に告白をしたこともあるのだから。
だが何しろ日付指定のチケットで、柳瀬がそれを手に入れたのはイベント当日だった。

それに吉野は羽鳥にちゃんと説明するメールも送っている。
だが羽鳥は電話じゃなくてメールだったのも、また気に入らないらしい。
羽鳥はその時間は会社で仕事をしているのだし、こんなことでイチイチ時間を取らせるのは悪いと思ったのに。
気を使ったのが裏目に出てしまったようだ。

もう!トリのバカ!
吉野は怒りの勢いそのままに「ブックスまりも」に入った。
ウサ晴らしに、以前から興味があったコミックスを全巻大人買いしてやるつもりだった。
そしてレジのところで、ちょうど会計を終えた小野寺律と鉢合わせしたのだった。
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