短編(アイシ・ヒルセナ)

□バレンタインデー
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今日、練習の後渡したいものがあるから残ってくれませんか?
セナからそう頼まれた。
折りしも今日はバレンタインデー。用件は簡単に推察できる。
練習が終わり、部員たちがすべて帰宅した放課後の部室。
ヒル魔はノートパソコンを叩きながら、セナを待っていた。

さすがクリスマスボウル優勝の威力はすごい。
今日は何人もの女生徒にチョコレートを渡された。
教室の机にも、靴箱にもうんざりするほど入れられていた。
それはヒル魔だけではなく、他のメンバーも同様だった。
やはり一番人気はセナで、ものすごい数のチョコレートを抱えて困った表情だった。

バレンタインチョコも嬉しいのは最初の数個。
それ以上は凶器にすらなるということを今日の部員たちは嫌と言うほど学んでいた。
それでもまもりと鈴音が用意したいわゆる義理チョコが配られたときには。
いい加減にウンザリした部員たちは、必死で嬉しい表情を作っていた。

部室に向かって走ってくるセナの足音が聞こえた。憂鬱になる。
ただでさえ甘いものは苦手なのだ。それに今日1日散々振り回された。
そして多分もうすぐセナからもチョコレートを渡される。
それでもやはりセナからのチョコレートは特別だ。
せいぜい嬉しい顔をしてやろう。頑張って目の前で一口くらいは食べてやろう。
ヒル魔は覚悟を決めたように、大きく息を吸い込んだ。
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