短編(アイシ・ヒルセナ)

□口紅ファイター
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鈴音は口紅を塗ったセナの顔を見て、思わず笑った。
なんの勘違いか口紅を「持って来い」が「塗って来い」に変わった。
男子高校生が集団で口紅を付けている姿はかなり異様だ。
だが小柄で童顔のセナだけを見ると、どこか妙に可愛らしい。
背後では伝言を間違えた栗田を蹴り飛ばす悪魔のQBの怒声。
けたたましい声に鈴音が思わずそちらを振り返る。
するとセナの口元に視線を送り、ふっと笑いをもらすヒル魔が目に入った。

鈴音がセナと初めて会ったのはアメリカ。
第一印象は「気弱で頼りない男の子」だった。
だがデスマーチと帰国後のいろいろな出来事を経て。
もどかしいくらい自己主張をしないのは、優しさの裏返しだと理解できた。
そして時々ハッとするような強さを見せる。
何よりもデビルバッツという兄と自分の居場所を見つけるきっかけとなった少年。
そんなセナを好きだと思うのに、時間はかからなかった。
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