短編(アイシ・ヒルセナ)

□Guidepost
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「セナ」
シュートを決めたセナと同じチームを組んでいた十文字が背後から声をかけた。
「何?十文字くん」
息を弾ませながらも、笑顔でセナが振り返る。
「おまえ、いい加減にしておかないとバレるぜ。」
「え?」
慌てて周りを見回したセナは、クラスメイトから賞賛と驚嘆の視線に気づく。
「それにあれ。」
十文字が指差したのは2年生の教室。
鬼のような形相の金色の髪の悪魔がハンドガンを構えて、セナに向けている。
「ヒィィィィ」
ようやくセナは自分のミスに気づいた。
そこから先は正に条件反射。教室のヒル魔を見上げてペコペコと頭を下げ続けた。
「ったく、何やってんだか」
十文字は一人で悪態をついた。面白くない気分だった。
セナが十文字の横を走りぬける一瞬、見えたのだ。
セナの口が一つの言葉を紡いだのを。
それは声にはなっていなかったけれど、セナは確かにその名を呼んだ。
セナにとってヒル魔は絶対的な存在。分の悪い勝負だとはわかっていたけれど。
十文字はこちらを見下ろしている金髪の悪魔を見上げ、挑発的な視線を送った。

あんな風に走っていたのか、とヒル魔は満足げに目を細めた。
あのアメリカを走りぬいた日々。ヒル魔は常にセナの気配や息遣いを背後に感じていた。
たまにセナがヒル魔を呼ぶ声が聞こえたような気さえした。何度も振り返りたくなった。
でも背後を走るセナの姿はついに目にすることはできなかったのだ。
迂闊に体育の授業なんかで走りを披露したことは叱責に値する。
でもあの走りが見られたのだから許してやるか。
何より今、あの時聞こえていたセナの声がまた聞こえたような気さえしたのだから。
ふと見ると、こちらに向かってオロオロと頭を下げるセナの背後に。
自分を睨み上げている十文字の姿を見つけた。
絶対に負けるつもりはねぇ。アイツは俺の。。。
ヒル魔は十文字の視線を受け止め、不敵に笑った。

【END】
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