短編(アイシ・ヒルセナ)

□Guidepost
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スピードを落とさないブレーキ。
急に歩幅を縮めて、一歩でジグザグに踏み切る。。。
鮮やかに何人もの敵選手を抜き去ったセナはボールをゴールに蹴り込んだ。

午後最初の授業はラッキーなことに自習だった。
ヒル魔は机の上にその長い足を乗り上げさせて愛用のノートパソコンを叩いていた。
時折校庭で歓声が起こったが無視。今は次の試合の戦略を練ることに忙しい。だが。
「ねぇねぇヒル魔ぁ、すごいよ〜」
腐れ縁の巨体のラインマンがドスドスとヒル魔の横にやってきて、声をあげた。
ヒル魔は校庭に目を向ける。1年生の体育の授業。サッカーだ。
見慣れたピョコピョコした髪型の小さな身体が次々とクラスメイトを抜いていく。
「あ、の、糞チビ〜!!」
窓際に仁王立ちになり、青筋を立てて怒るヒル魔に栗田はギョッとする。
「ヒ、ヒル魔?」
「あれじゃ、正体バレちまうだろうが!」
栗田も「あ」と声を上げた。
確かにあれはアイシールド21のステップそのものだ。
何も知らないまもりも窓からセナを見ていた。
「セナってサッカー、あんなに上手かったのね。でもあの動き、どこかで。。。」
栗田にはヒル魔の堪忍袋の緒がプチリと切れる音が聞こえた気がした。
そしてその巨体を恐怖で震わせ、セナの無事を祈った。

当のセナは完全に楽しんでいた。
ボールを蹴りながら進むこの感覚。デスマーチの記憶が蘇る。
あの熱い夏の日々。どこまで続くのかわからない道をただ石を蹴りながら進んだ。
道標は重い銃器を抱えて、大きな声でルートを指示していた金色の髪のあの人。
あの人が走るたびに揺れるピアスから照り返す夕陽まではっきり思い出すことが出来る。
ヒル魔さん。ラスベガスに着くまでに心の中で何度呼びかけただろう。
セナは今またヒル魔の後姿の幻影に呼びかけ、今日何度目かのシュートを決めた。
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