短編(アイシ・ヒルセナ)

□デスマーチ
1ページ/1ページ

デスマーチで危うく迷子になりかけたセナが、何とかデビルバッツに合流した。
ヒル魔は心底ホッとしたが、そんな素振りは微塵も見せないようにするには些か努力を要した。
しかも瀧兄妹という変なお土産つきだ。転んでもタダでは起きないヤツ。
何事もなかったようにへらへらと笑っている糞チビ−セナの顔が何とも癪にさわる。

その夜のこと。夕飯後のわずかな自由時間。ヒル魔は愛用のノートパソコンに向かっていた。
サンアントニオ・アルマジロズで検索する。瀧が受けたというテストの様子が見たかったのだ。
そしてサイトにはチームに連絡をして欲しいというセナに向けた一文。
驚いたヒル魔はテストの様子を映した動画を検索し、それに見入った。
そこにアイシールドを付けた21番の姿。小柄な体躯は子供子供している。
まだ未完とはいえ今までの弱点を克服したその走り。
そして即席チームを勝ちに導き、見事一次テストに合格。
どうやら結果を聞かずにセナは立ち去ったようだ。
名前をコールされた後、その本人がおらずテスト会場が混乱していた。

「糞チビ、ちょっと来い」
不機嫌そうな様子のヒル魔に呼ばれたセナはビクっと身を震わせた。
だが、きっと迷子になったことを怒られるのだろうと思い至る。
皆の輪を離れ、そのまま人気のない方に進むヒル魔に従って歩く。
そして充分皆から会話が聞こえない場所まで来てヒル魔が足を止めたのを見て、恐る恐る声をかけた。
「あの、すみません。蹴っていた石が大きな車に吹っ飛ばされて、追いかけてて、その」
「テメーも受けてたんだな、プロテスト。」
どうして知ってるのか?という顔をしたセナにヒル魔は抱えていた愛用のノートパソコンを指差してケケケと笑った。
「すみません。勝手なことばかりして。」
シュンとなるセナを見てヒル魔は苦笑した。
「もし受かってたら、テメーはどうする?」
「え?受かってるわけないです。」
「だから。もし、だ。」
セナは不思議そうな顔をしてヒル魔を見た。
自分に自信を持てない少年は合格という事態をまるで想定していない。
「どうもしません。」
「あ?」
「だってデビルバッツでクリスマスボウルに行くのが、僕の。。。それに皆の夢でしょ。」
セナがふわりと笑った。日焼けした顔に浮かんだその微笑は入部当時より大人びている。
「まだ走りはまだ完成してねぇんだろ。勝手に人前でそれを見せるな。」
「はい。すみませんでした。。。」
冷たいヒル魔の口調にセナはしょんぼりと頭を下げた。
「それから迷子にもなるな。心配すんだろ。」
「え?」
セナは思わずヒル魔の顔を見上げようとしたが、ヒル魔はセナに視線を合わせることなく背中を向けた。
「話はそれだけだ。さっさと戻れ。」
「はい。」
セナはヒル魔の背中に頭を下げると、チームメイトの輪の中へ戻っていった。

ヒル魔は背中越しにセナの気配が遠ざかっているのを感じながら、笑っていた。
プロテストに受かってもどうもしない。
だってデビルバッツでクリスマスボウルに行くのが夢。
そんなことを当たり前のようにさらりと言い切ったセナの決意が嬉しかったのだ。
でもそれを本人に言ってやるつもりはない。
セナに気を取られたせいで忘れていた。肝心の瀧夏彦のプレーをチェックしなくては。
ケケケと不敵に笑いながらヒル魔も輪の中へ戻っていく。

【END】
次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ