短編(アイシ・ヒルセナ)

□あの雨の日に
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小早川瀬那は雨の中、ラダードリルでステップを踏んでいた。

昨日は春大会の2回戦、王城ホワイトナイツとの試合。
泥門デビルバッツは負けてしまったのだ。
もっと早くに進を抜けていたら。結果は変わっていたかもしれない。
そう思うと悔しくてたまらなかった。
そして終わってしまったのだと思った。でも。
「クリスマスボウルに行くのは秋の優勝者。」
「要は秋に勝てばいいのよ。」
2人の先輩の言葉。こみ上げて来る静かな闘志。
そして雨の中で片付け忘れたラダーを見た時、思わず足を踏み出していた。

雷門太郎は雨の勢いが増してきた空を見上げてため息をついた。
これじゃやっぱり練習はできねぇな。
名残り惜しげに野球のボールをその身長に不似合いな大きな手の中で転がしながら、
帰宅するために学校を出ようとして、それが目に入った。
雨の中で動いている男子生徒。雷門の位置からは後姿しか見えない。何だ?
雷門がその生徒に近づくと足元にハシゴのようなものがあるのが見えた。
何かのスポーツの練習なんだろう。雨の中でも熱心だな。
雨だから練習できないなんてことはないんだ。家に帰ってイメトレでもするか。
種目は違うけど、あいつに負けないように俺も頑張るぜ。
雷門は男子生徒の後ろ姿を見ながら、手の中にあるボールをギュッと握り締めた。
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